だいさく NOSAI獣医日記

強みをみつけ、チャレンジを与えられる獣医でありたい

100記事目!とりあえず続きました!

2021年12月1日にブログを始めて2年4か月、100記事に到達しました。

私の稚拙なブログをここまでお読みいただき、皆様のおかげでここまでたどり着くことができました。ありがとうございます。

単純計算、2年4か月、857日÷100記事=8.57日/1記事

約1週間に1回、記事を書き続けた感じです。

100記事目は何にしようかと思っていたのですが、いつも日々の疑問や気づきについて調べて書いていたので、100記事目も今日4月6日の出来事を記したいと思います。

今私は、酪農のメッカである根室地区に出張で研修に来ています。そこで私が日高で入社した時に非常にお世話になった地元の高校の先生が今根室で高校の先生をしているので、久しぶりにお会いすることができました。

根室の酪農事情、牛、獣医療、心身のコントロールの仕方、生き方、など朝から夕方までずっと教えていただき、その中でどうしても私は「どのように生徒に接し、教えているのか」を知りたくて質問し教えていいただきました。

①難しいことを簡単に、簡単なこと深く

②現在地を気づかせる

③見せるだけでなく、魅せる

④教える側が生徒をスケーリングやジャッジングはいかがなものか

⑤決めつけない

⑥働くということは、「人」のために「動く」

⑦問題解決能力も大事だが、今は問題「発見」能力を身に着けることが求められる

⑧最初丁寧に教えていないと、何でも聞いていいよといっても、何を訊いたら良いかわからない。何がわからないのかがわからない。相手に質問することを委ねるのではなく、こちらから具体的に質問する。

⑨恩返しではなく恩送り

⑩この世代は学生時代コロナの影響を受けて私たち大人が思っている以上にストレスをかかえ、本当に苦しんだ。だからこそ、実習や講義を大事にしたい気持ちがあるし、それに応えないといけない

⑪世の中コーチングが取りざたされているが、それは丁寧なティーチングをしっかり行った上でのもの。丁寧なティーチングなくしてコーチングに入らない。

⑫挨拶はこちらから

⑬3つの「たい」がある。認められたい、褒められたい、役に立ちたい

⑭体をトレーニニング、マイオカイン。脳機能。

⑮少しでも良いので定期的に文章を書くトレーニング。パソコンではなくわずかでも手書きをする習慣へ。脳機能。

⑯できたことをほめることも大事だが、その過程での行動の事実をただフィードバックすることが非常に大切

⑰学習の4段階。どの段階で上手く気づかせるか。

学習の4段階

⑱笑顔。笑顔に人が集まる。人が集まれば情報が入り可能性が高まる。ハブになる大事。

⑲牛のロープワーク。

⑳自分が新人の時、果たしてどうだったか?

 

このようなお話を教えていただきました。

プロ(獣医師)と高校生で教える相手の社会的役割・立場は異なりますが、原則はそんなに変わらないと思いました。

私は有難いことに関わる人に恵まれてきましたが、その方々に恩を返すこと大事ですが、恩を次の世代に送ることをもっと大事にしていきたいと思いました。

100記事目、最後までお読みいただきありがとうございます。

いつ、何を遺すか

最近、定年間近の先生と初対面にもかかわらず長くお話する機会をいただき、その先生の言葉が以前に私が感動した別の先生から頂いた言葉と似ている出来事がありました。

先生「50代になると、眼が見えにくくなる。だからやりたいこともやりにくくなった」とおっしゃられました。

そうなると私はあと8年で50歳だから、やれることは今のうちにやっておかないと!と思いました。

実は、獣医師7年目(31歳)の時に、自分が手術センターに送った患畜を、ある先生(当時は当時51歳)が手術してくださることになり、その助手に入ったときに、こんな会話がありました。

先生「上野君、今後どう考えているの?」

私「最初の10年はがむしゃらに、次の10年で何か考えて、最後の10年で何か残して去ります」

先生「50代は体力が本当に落ちて、そのため気力も落ちるから、今体力のあるうちに残しておくんだ」

と教えていただきました。

この時に非常に感動したのを今でも覚えています。

このお二人の先生が同じ感じだったので、やっぱり「今」を大事にしないといけないんだなと改めて感じました。

たしかにNOSAIに勤めながら大学院に通っているときは、まだ30代後半だったので体力がありやり切れましたが、これからもう一回となると、たとえお金があっても体力・気力ともに難しい気もします(やってみないとわかりませんが今の私にはできないかな)。

そしたら、「今」自分は何をすればよいのかなと考えました。

働き方は多様な世の中で、私も職場(仕事)だけ人間にはなりたくないです。

あくまでライフ(人生)の中の一つにワーク(仕事)があると思います。

しかしながら、獣医師は獣医療を専門とする技術者でもあるとともに、自然科学の科学者でもあります。

なので、やはり科学し獣医療を探求・発展し後世に何かの形で残していくことは大事な考えだと私は思っています。

そこで自分が何をすれば良いか、ふと浮かんだのが、「何を」残すかです。

すぐに浮かぶのは、獣医療知識や技術、論文など、目に見える物かと思います。だからまだまだ獣医療知識と技術を高めていきたいと思っています。

しかし、それと同様に、もしくはそれよりも大事なことが、「人を」遺すことかと、私は思います。これは人それぞれだと思います。

私がこの考えなのは、恩師であるサッカー部の監督の松澤先生が生前残していた言葉が私の動機付けの土台にあるからです。

(先生の言葉)

やり切った、という思いだった。区切りをつけるために、勝つために書き記してきたノートやいろんな資料をすべて燃やした。私の足跡が記録として残らなくてもいい。1000人もの教え子がいる。それで十分。

daisaku-nosai-hokkaido.hatenablog.com

人間のお医者さんの中には、町の方々のために一生懸命がんばってくださっている方がいます。大変失礼で申し訳ございませんが、この方々が論文を書いたり超高度な技術を持っているとは、私には見えません。しかしながら、多くの人に貢献し、中には医者になりたいという子供たちに夢を与えることができます。これも「人を遺す」につながると思います。

なので、体力がまだある40代に「今」を大事にして「人を遺す」ことを緊急ではないかもしれないけど最重要なこととして取り組んでいきたいと、ブログを書きながら自分に言い聞かせました。

でも、「人を遺す」ためにも、まだまだ獣医療技術や知識も高め、論文も残していく所存です。

今日も最後までお読みいただきありがとうございます。

初期獣医師へのコミュニケーションの頻度と時間

研修で学んだことと、私がコミュニケーション等について学びたいときにいつも教えていただいている方との対話で、初期獣医師への育成の基本について気づきがあったので3つ書き残しておこうと思います。

① ペーシング

② リフレーミング

③ フィードバックと現状把握

 

①ペーシング

信頼関係構築にむちゃくちゃ大事。

話すスピードがゆっくりな人にはゆっくりと、早い人には早く会話し合わせる。声の大きさに合わせる。相手のうなずきや相づちの頻度に合わせる。歩くスピード、さらには呼吸のスピードを合わせることもペーシングの一つです。

この話をしているときに、子供を寝かしつけるとき何故か理由もわからずいつも子供の横で呼吸を合わせていますね、とお互い話になり、それが実はペーシングですよと教えていただきました。確かに安心感(心理的安心感・安全性)を子供だけでなく親である私自身も得られている感じが何故かします。

 

②リフレーミング

以下の前記事でもお伝えしましたが、今回は例えばの話です。

daisaku-nosai-hokkaido.hatenablog.com

 

・神経質 ⇒ よく気が付く、細やかな配慮ができる、丁寧

・しつこい ⇒ よく考えている、情熱あるね、粘り強い、原因を追究している、入念に確認を行っている、かまってくれる、みてくれている

・幼稚 ⇒ 若々しい、真っすぐ、人懐っこい、純粋、元気、フレッシュ、先入観にとらわれない

・仕事が遅い ⇒ 丁寧、しっかり考えている、見直してミスがない、慎重

などがあります。

 

③フィードバックと現状把握

信頼関係構築のためには、初期獣医師とのコミュニケーションの量は大事ですが、いつも長時間行えばよいというわけではないとのことです。

ここではこちらからのアプローチとして、日、週、月単位で考えてみました。

・日

今日の診療でできたこと、できなかったことを数分で聴きます。

そして、この時は聴くだけ。できたこと、できなかったことを新人本人が自分の言葉で説明することによって自己肯定感が高まります。この時間では議論はしません。

一日の存在に感謝し、労いの言葉(「今日も一日ありがとう、ご苦労様」の一言でも良いと思います)をかけます。

・週

わかりにくかったことはなかったか、不明な点はないか、良かった点・反省点などあったかを、数分~数十分時間をかけて話し合います。そして、知識や技量がある程度高まっている状態であれば「ではどうすれば良い?」を質問し、新人本人に自分で考えさせるフィードバックを行います。まだそれについて知識や技量がない場合は、アドバイスを行います。

・月(月単位、数か月単位)

新人本人がどの程度成長できているか、現状の知識や技量、どのように成長感を感じているかをチェックします。1時間くらいかかるかも。

自分は、この日・週・月の使い分けを意識もしていなかったので勉強になりました。

 

今回知ったことがあったので行動で示していきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございます。

「新入社員への仕事の教え方」のセミナーに参加

新人獣医師の育成(On The Job Training)は様々な組織で行われていますが、私もどのように行えばよいのか悩み中でありそれを勉強したくてセミナーに参加しました。

その中で勉強になったことをやや長文になってしまい申し訳ございませんが、自分も頭を整理したいので、いつでも見れるように文章にして頭に入れようと思います。

セミナーの内容についてです。

数社が参加したセミナーで、その方々の多くが、「1年目よりも2~3年目で離職する社員が多い」とのことでした。その理由については、多くの離職者は本音を語らず辞める人が多いとのことです。講師の先生は「1年目はOJTが充実していても、2年目になると新たな新入社員のOJTが開始されるため、2年目の社員はOJTがトーンダウンしてしまうことが多い。実は、そのトーンダウンにストレスを感じる人が多い。なので新人は3年かけて育成するように心がける必要がある」と経験上感じているとのことです。なので、中長期的な関わりになるため、育成担当者(OJT担当者)だけでなく、診療所全員が関心を持って新人育成に関わっていくこと、育成担当者は新人獣医師の日々の状況を周囲と共有することが非常に大事になるとのことです。育成担当者がつぶれないように、新人はお荷物ではなく、「組合全体の財産」という気持ちで診療所全員が関わるような仕組み(ミーティング等、まめな情報共有)、雰囲気を診療所内で作ることが大事とのことです。

また、OJTとはどのような教育でしょうか?

定義としては、「日常業務の中で仕事を通じて、意図的、計画的に働きかける指導や教育」とされているため、いきあたりばったりの教育ではできない、とのことです。

そもそも、新人獣医師の育成指導の目的は何なのでしょうか?

狭義的には、「新人獣医師に仕事を覚えさせるため」ですが、本当のゴールは、新人獣医師の自己有用感(私、役に立っている!)を高め、「この職場にい続ける意味がある」「この職場で必要とされている」という実感をもたせること、とのことです。

そのためには、新人獣医師とのコミュニケーション、信頼関係構築が非常に重要になり、これがなければどのような方法を使っても育成の効果は表れにくいとのことです。

では、どうすれば信頼関係を構築できるのでしょうか?これについては、「こんな上司・教育指導者には教わりたくない」というテーマで参加者全員で情報を出し合いました。それをまとめたところ、結局はその反対の行動をすることが大事となりました。

その行動の代表的なものが、

1. 礼儀礼節をわきまえた行動、身だしなみ

2. 新人獣医師の仕事と成果への関心

3. 自身および新人獣医師の役割の理解

4. こまめな情報共有

5. 前向き・建設的な言動

6. 仕事に対する目的・目標意識のある言動

7. 周りに対する敬意、尊重、配慮

8. 傾聴・共感するコミュニケーション

9. 良い事は互いに称え合う

10. ダメなことはダメという

です。

これらは、意識し訓練することで徐々にできるようになれば良いですが、まず土台になるところが傾聴とのことです。共感、オウム返し、要約、伝え返しなどは基本中の基本で、この程度は筋肉注射するぐらい当然できるように普段から意識して訓練しておくことが大事です。みな筋肉注射も最初はできなかったのですから、意識し訓練すれば傾聴もできるようになると私も自分に言い聞かせています。

実際に新人獣医師に仕事を「教える」ことになった場合、大事な5-ステップがあります。

1. 教える準備をする

2. 丁寧に仕事の説明をする

3. 丁寧にやってみせる

4. やらせてみる

5. フィードバック

特に重要なのが1の準備です。

新人獣医師の知識、経験知をまずは把握することで、どの程度教えれば良いのかを調整するとのことです。さらにここで最も重要なのが、その仕事の目的・意義、重要性、影響、習得のメリット、を伝えることとのことです。意義については、自分で言葉で説明できるようにしておくことが大事です。意義が仕事のやりがいの動機付けになります。やりがいはいずれ新人獣医師本人が自分で作っていくものですが、まずは先輩が1つの仕事が最終的に何に繋がっているのかを新人獣医師に伝え理解してもらうことです。また、教える時には、程度言葉(ちゃんと、きっちり、なるべく、意識しろetc)は使わず、数値として継続できるように説明すること、具体的にかみ砕いて伝わる説明をすることが大事です。

 

新人獣医師を大切にする、心理的に安心感を与えることが非常に重要とのことです。なので、「Z世代が」とか「今の新人は」とかは言わずに、人との関わり方を今の時代に合うように、私自身もアップデートすることに気づかされました。しかしながら原理原則を伝えることは非常に重要です。その上で、自分や自社の常識は全世界共通のルールではないと肝に銘じること、とのことです。

安心感を与えるために重要なのが、承認です。

このスキル向上のコツは、観察力とのことです。これはグサッときました。私は観察力が本当に足りていないからです・・・。

観察し、新人獣医師の良さ・持ち味を見出すネタをまずは作ることです。そのためには、フレーミングのスキルが必要になるとのことです。私は初めてリフレーミングという言葉を知り非常に勉強になりました。

フレーミングとは、「気持ちが上向く、見方が変わるような言葉に変換しての言葉がけ」をいいます。新人獣医師がネガティヴな状況、出来事、言葉、感情、を持った場合、まずは受容し共感しますが、その後、リフレーミングを行い、ほめてあげるネタに変えていきます。そのネタを見出し、それを引き出し、本人に伝えることで承認ができます。このリフレーミングを繰り返すことでスキルは向上し、承認力がアップしていきます。やっぱり、獣医療技術もそうですが、このようなスキルも習慣、訓練、なんだなと思いました。

しかしながら、いつも励ましているばかりではありません。

仲良し軍団だけでは組織も個人も成長が難しいです。指摘・注意するために叱ることが大切です。

次に、指摘・注意することと、その仕方について説明します。

注意したらパワハラになるのでは、そうなったら自分がここに居られなくなる、また注意したら新人獣医師は嫌になって辞めるのでは、注意は注意する側もパワーをすごく使い疲れる、などで注意・指摘することを躊躇する先輩獣医師も多いです。しかし、後輩が好ましくない言動をした場合は、迷うことなく即時に指摘・注意しなければならないとのことです。指摘・注意が必要な場面とは、以下の3つとのことです。

1. 真摯に取り組まない

2. 約束、ルール違反、組織風土を乱す行動

3. 周囲の迷惑を考えず行動した場合

そしてさらに大事なのが、どの程度まできたら指摘・注意するのか、その基準です。育成担当者の個人的な好き嫌いや価値観を基準にしてはいけないとのことです。

基準にするのは、組織としての価値判断基準に反していないかどうかです。これは、企業理念診療所の理念・文化・考え方・行動理念です。

次に、指摘・注意するステップについてです。

1. 本当に指摘・注意する必要性があるのか再度検討すること

2. 事実を新人獣医師に確認すること

3. 本人の言い分や認識を確認する

4. その言動の影響を具体的に伝える(社会人として・・・は使わない)

5. 正しい言動とはどのようなものか、行動をただす理由を伝える

6. 期待とサポートの意志を伝える

7. 指摘・注意するのは、行動修正が目的のため、理解できているか最後に聞く

もし、理解できていなければしつこくでも聞く。

しかしながら、このステップがなかなか難しい場合も多々あります。そのため、何を伝えた、そしてできたか、その記録をデータで残しておき、診療所皆で考えるときに資料としてその記録した情報を利用するのが良いとのことです。

 

ここまでは、教育担当者(OJT担当者や診療所全職員)側の心構え、マインドセットについてでしたが、これだけでは新人獣医師育成は上手くいかないとのことです。育成する側だけでなく、新人獣医師に対しても早い段階から定期的・継続的な心構え、マインドセットを行うことが非常に重要です。

また、新人獣医師を大切にする=甘やかす、ではないとのことです。

特に、仕事の対価については絶対に伝える必要があると先生は話されました。いくら認めてほしい、共感してほしい、と思っても私たち獣医師はプロである以上、結果を蓄積できなければ認められないのは当然であることです。自分の存在価値や働き甲斐は人から与えられるものではなく自分自身で見出しつかみ取るもの、セルフコントロール、このような心構えを身に着ける必要があるため伝える必要があります。

最初だけでなく、定期的、継続的に心構えを新人獣医師に伝える仕組みを組織や各診療所で作ることが非常に重要と思いました。

つまり、お互いで、新年度が始まり新人を含めた診療所全員で「教える・教わる」について話し合い、勉強し、皆で訓練して習慣化していくこと、それができる仕組み、雰囲気をつくることが大事になる、感じました。

このセミナーの内容が絶対ではないですが、私は気づかされることが満載で、非常に勉強になりました。

私と同じように新人育成でお悩みの先生方に少しでも参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございます。

稟告を聴取するためには?

稟告を聴取することは、診断する上で欠かすことができない手順の一つです。今回、「稟告をどうしたら聴取できるのか。」を考える機会がありましたので、私自身の経験や書籍を参考に、現時点の私の考えを残してみました。

この問いに特に悩みを持っているのは、経験の浅い若い獣医師の方かと想像します。私も新人時代、先輩獣医師に「農家さんと何を話せばよいか、どう話をすれば良いかが悩みなんです」と話していたとのことで、気持ちはすごく理解できます。一生懸命診療を行えば信頼を得ることができる!と私自身は意識し仕事を続けてきてそれなりに信頼を得られたと思っていましたが、その姿勢だけでは稟告をしっかりと聴取することができる、までには至らないと私は思います。稟告を聴取するためには、「質問力」を鍛える努力が必要であると私は思ってきました。例えば、信頼関係のある(と思っているのは私だけかもしれませんが・・・)家族においても、質問により対話して初めてお互いを知って理解することができることは多いです。しかし、質問をたくさんすれば、普段のコミュニケーションや信頼関係も良好かといえば、そうは言い切れないとも思います。質問の仕方が大事になります。

 つまり、稟告をしっかりと聴取できるようになるためには、普段の信頼関係構築を意識し、その意識をもって質問力を鍛え続けることが診断し適切な対応をするために非常に大切なことである、と私は考えます。

 ここから具体的な質問の仕方について説明していきます。私は、獣医師10年目くらいの時に出会った斎藤孝さんの著書の「質問力」に登場する座標軸を意識して質問の言葉を考えるように努めています。

図1をご覧ください。稟告聴取の基本中の基本は、「農家さんも話したい、自分も知りたい」ことを質問することで、右上の「ストライクゾーン」に当てはまると思います。自分が聞きたいことだけを聞くだけではありません。農家さんの話したい事、気になること、関心を推し測り、自分の関心と擦り合わせて行わる質問がこのゾーンです。農家さんの関心を上手に呼び出す、掘り起こす質問は、農家さんに寄り沿う質問であり、これを引き出せれば非常に親密なコミュニケーションに繋がります。農家さんの心に寄り添い、一番心の負担になっている部分を分かち合いたいという方向性で質問を考えます。具体的には、普段から聴く項目を決めておくために、ヒアリングシートを作成しておきます。いわゆる問診票です。一般的な問診票だと自分が聞きたいことだけなので、それに追加してそれぞれの農家さんの関心事を話してもらうように質問を考えます。

図1 質問の座標軸

 ここで「関心事を話してもらう」について、私が習慣的に行っている事は、家さんが何に詳しいのか、農家さんの専門性を普段から意識して見抜き、その分野について事前に勉強しておくことで、自分を農家さんの専門性に近づけ、農家さんに教えてもらう気持ちで質問していきます。専門分野なので、本当に多くのことを話してくれます。そうすると、私個人では探しきれなかった牛の症状や病歴に気づくことができ、より確かな診断に近づけることが多いです。獣医療の教科書ばかり勉強するのではなく、畜産や酪農の情報、はたまた農家さんが興味のある趣味について勉強するなど、少しでも農家さんと自分のつながりを作る「努力」が大事だと思います。

 他の具体的な質問の仕方の一つとして、変化について聞くことは非常に有用な稟告を聴取できます。以前と今でどう違うのかを「比較した」質問は多くの農家さんがよく答えてくれます。今の症状を聴取することも大事ですが、この症状が出てきた経緯について聞いた方が得ることが多いのではと私は実感しています。

 しかしながら、このように、右上のストライクゾーンで稟告を聴取しようと思ってはいるものの、気が付くと左上の一方的に知りたいことだけを聞く質問になって農家さんが話す雰囲気を作れていないことが私は良くあります。ここは「子供ゾーン」と言われています。特に忙しい日と気持ちがいら立っている日です。このような状況では、自分軸で話が回ってしまいますので、獣医師自身が考える、思いつくことしか話題に上がらないため、患畜の情報収集に漏れがでてしまう可能性があります。そうならないために、何とか自制し、農家さんに話してもらうことを意識しています。私の獣医師人生では、これをやってしまった時が、診療後の車の中で最も後悔してしまう瞬間です。何年経ったも子供ゾーンに入ってしまう瞬間の自分がいます。

一方、右下の「大人ゾーン」の質問について説明します。自分は関心がなくても農家さんが関心を持っていればそこを掘り下げるように質問してより農家さん側に寄り添います。雑談に近いかと思います。正直なところ、これができるかできないかが、獣医療以前に社会の中で自分自身が充実して生きていけるかに密接に繋がり、できないと獣医療すらも満足に発揮できないまま毎日が過ぎてしまうと私は感じます。農家さんの中には今日会う人が、私が最初で最後かもしれない、という方もいらっしゃいます。なので、話したい方が中にはいらっしゃいます。そういう時は、今の時代では効率は悪いかもしれませんが、中長期的にお互いに効果がしっかりでると私は思っています。さらに、この大人ゾーンでは、自分では関心も無かった故に思いもしなかったことを農家さんから教えて頂いたことが本当に多いです。しかし、だからと言って、このゾーンばかりの質問をする習慣がつくと、それは「おべっかゾーン」といいうことになり、稟告を聴取するという本質からずれていきますので注意も必要です。

また、左下の「相手は話したくない、自分も知りたいとは思わない」ことは、私は正直話さないし聞かないようにしています。

つまりまとめますと、農家さんから稟告を聴取するためには、質問の座標軸を意識して、「ストライクゾーン」を中心に「大人ゾーン」を入れていくように心がけて質問を進めて対話を進めていくと、多くの有用な情報を聴取し患畜の状態のより良い診察に繋がり、診断や農家さんの問題解決により近づけると私は思います。また、これを習慣化すると農家さんとのコミュニケーションも深めることができ信頼関係構築にも繋がると私は思います。

本内容が、稟告を聴取するために悩んでいる獣医師の先生方に少しでも参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございます。

農家さんが何を求めているかを理解する

ちょっと気になることがあったので、記しておこうと思いました。

農家さんとのコミュニケーションで私が(意識しないと出来ていないから)気にしていること。

  1. あいさつ(社会人として当たり前)。農家さんは今日初めて会う人は私かもしれない。さらには今日一日で会う人が私だけかもしれない。
  2. 間違え、失敗、ちょっとでも農家さんに迷惑をかけたなと感じたら誠実に謝る。これが本当に本当に本当に大事と私は思います。これが全てかと思うくらい大事。
  3. 自分の価値、考えを押し付けない。
  4. 農家さんが私に何を求めているのかを全力で理解する
  5. そのために、話しを聴くに徹する。私は最初徹する気持ちで入っても、結局はいつの間にか話す側に回ってしまっているので、意識して聴くに徹する対話を心がけるようにしている、ですがこれがなかなか難しい。
  6. ここで引き出した情報がその農家さんの価値観。
  7. それぞれの農家さんの価値観・私に求めていることを見抜く。皆違うと思います。
  8. それに応え続ける。
  9. 応え続けて自分の武器、価値が生まれてくる、と私は思います。
  10. 自分の価値を農家さんに感じてもらって、その対価として診療料金をいただく。
  11. 料金が高くても獣医療サービスが良ければ、農家さんは高いとは思わない。逆に獣医療サービスが悪ければ、たとえ安くても高いと感じる。

入社した時に、このような獣医師になりたい、自分はこのような獣医師だ、と思うのは素晴らしい心がけだと思います。しかしながら、それに縛られることなく、「農家さんが何を自分に求めているのか」を考えてそれに応える習慣が農家さんと信頼関係、円滑なコミュニケーションには大事かと、私は思います。

あくまで、私が個人的に思っていることであること、ご了承いただれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございます。

PG-PG-GnRHショートシンク法の改善案

2年前に以下の記事を書きました。

daisaku-nosai-hokkaido.hatenablog.com

このPG-PG-GnRHショートシンク法は乳牛の繁殖管理において非常に有用な定時授精法と今でも思いますが、最近の文献を読んでいると、間違いがあることに気づかされ、もしかしたら改良できるポイントがあることも見えてきました。

私は今まで、PG→PG→GnRHショートシンク法は、第1卵胞ウェーブのステージにいると判断した場合は投与を避け、第2卵胞ウェーブ時でのみ行う方が良い、と考えていましたが、それが変わりそうです。

定時授精のタイミングを早めれば受胎率が向上する可能性がある、ということです。

キーワードは、卵子精子が出逢い受精するタイミングを適切にする、ことです。

つまり、卵子排卵するころには精子が受精能をすでに獲得していることが重要ということです。

この話を進めるにあたって、過去の文献から次の7つを意識していただければ有難いです。

①卵胞ウェーブ(第1ウェーブなのか第2ウェーブなのか)

②EB(安息香酸エストラジオール)投与からエストラジオール濃度がピークに達するまでの時間:6時間

エストラジオール濃度がピークに達してからLHサージまでの時間:13時間

④LHサージから排卵するまでの時間:25〜30時間

⑤EB投与から排卵までの時間:43~50時間

卵子の受精能保有時間:12時間

精子の受精能力獲得まで要する時間:8-10時間

これら7つを使って、考えていこうと思います。

まずは、文献紹介です。

第1卵胞ウェーブの主席卵胞は、まだ黄体形成期なので低いP4濃度下で卵胞が育つためLHの影響をより受けやすく、第2卵胞ウェーブの主席卵胞よりも発育が早いことが報告されています。2021年のBisinottoらの報告では、第1第2それぞれ、新しい卵胞ウェーブが出現して6日目でPGを開始するように想定されて前処置されていました。そのような前処置をうけた後の第1卵胞ウェーブの牛に対してPGを投与すると、約半数の牛がPG投与24時間後という早い段階でエストラジオール濃度がピークに達してしまう結果でした。しかしながら、第2卵胞ウェーブでは、ピークは早まることはなく、PG投与56時間後にピークを迎えていました。

しかしながら授精17日目での受胎率は第1第2で差はなかったとのことです。

この文献情報を利用することで、万代先生の博士論文で報告されているPG-GnRHショートシンク法を考えてみました。

10mm以上卵胞が1個持っている牛は第1卵胞ウェーブの可能性が高いことが報告されています。それを利用して、第1ウェーブと想定した場合、GnRH投与から16-20時間後に人工授精(受胎率23.1%)を行うよりも、GnRHと同時に人工授精を早めに行った方(受胎率:61.1%)が受胎率が大幅に改善することを示されました。

Bisinottoらの報告と合わせて考慮すると、精子が受精能獲得する前に排卵してしまう牛がいるため、それを回避するために授精をGnRHと同時に行ったことが受胎率向上につながったと考えられました。

第1ウェーブ時は、PGから定時授精までのタイミングを少し早めることが受胎性には大事

ここで、自分が利用しているPG→PG→GnRHショートシンクではどうか、考えてみました。

PG→PG→GnRHショートシンクの問題点と改良へ

もしも、第1卵胞ウェーブでPG→PG→GnRHを開始すると、精子が受精能獲得する前に排卵する牛が半数ほどいる可能性があることが想像されます。

さらに第1卵胞ウェーブで授精に向かったとしても、私の研究(上記にある添付記事)では19%の受胎率と非常に低い結果でした。

この受胎率の低さを大学の繁殖の先生と議論したところ、「授精前に排卵している牛がいるかもよ」と教えていただきましたが、その可能性は非常に高いかもしれません。

それゆえ、タイミングを調整するために、PG開始から56時間後にGnRHと同時に定時人工授精を行えば、受胎率が向上するかもと、新しい考えを持っている最中です。

参考文献含め、これまでの報告を加味すると、個人的には、

第1卵胞ウェーブと判断したらGnRHと同時に定時授精、

第2卵胞ウェーブと判断したなら今まで通り(まだ改良の余地があります)

が良いかもと思っています。

私は、PGF2αはジノプロストを使用することが多く、ジノプロストは2日連続投与を行ってきました。

しかしながら、PGF2αとしてクロプロステノールを使用し、さらに倍量投与を行えば、2回ではなく1回投与でも良いとの報告もあることから、これまでは最大4回牛を保定しなければならなかったのですが、それを2回にすることができるとも期待しています。

今回は排卵促進剤としてGnRHを利用した場合での話でしたが、EBを排卵促進剤で利用する場合もあります。様々なパターンを知っておくだけでも、新しいアイデアが浮かぶかもしれませんので、参考にしていただければ幸いです。

daisaku-nosai-hokkaido.hatenablog.com

本内容の考察は、現時点ではまだ仮説の段階ですので、どこかでまとめられれば良いなと思っています😊

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

参考文献

  1. J.N.S. Sales, J.B.P. Carvalho, G.A. Crepald.  Effects of two estradiol esters (benzoate and cypionate) on the induction of synchronized ovulations in Bos indicus cows
    submitted to a timed artificial insemination protocol.  Theriogenology
    2012, 78, 510–516.
  2.  G.A. Crepaldi, J.N.S. Sales, R.W. Girotto.  Effect of induction of ovulation with estradiol benzoate at P4 device removal on ovulation rate and fertility in Bos indicus cows submitted to a TAI protocol. Anim Reprod Sci, 2019, 209, 106141.
  3.  G. Uslenghi, A. Vater, S. Rodríguez Aguilar.  Effect of estradiol cypionate and GnRH treatment on plasma estradiol-17β concentrations, synchronization of ovulation and on pregnancy rates in suckled beef cows treated with FTAI-based protocols.  Reprod Dom Anim, 2016, 51, 693–699.
  4. A. C. O. Evans, P. O'Keeffe, M. Mihm. Effect of oestradiol benzoate given after prostaglandin at two stages of follicle wave development on oestrus synchronisation, the LH surge and ovulation in heifers. Anim Reprod Sci, 2003, 76, 13-23.
  5. J. Saumande, P. Humblot. The variability in the interval between estrus and ovulation in cattle and its determinants, Anim Reprod Sci, 2005, 85, 171-82
  6. Ryotaro Miura, Shingo Haneda and Motozumi Matsui. Ovulation of the preovulatory follicle originating from the first-wave dominant follicle leads to formation of an active corpus luteum. J Reprod Deve, 61, 4, 2015.
  7. R. S. Bisinotto, E. S. Ribeiro, L. F. Greco. Effects of progesterone concentrations and follicular wave during growth of the ovulatory follicle on conceptus and endometrial transcriptome in dairy cows. JDS, 2021, 105, 889-903
  8. 万代一翔 乳牛の定時人工授精プログラムの改良に関する研究 北里大学大学院 学位論文
  9. T. Minela, A. Santos, E. J. Schuurmans. The effect of a double dose of cloprostenol sodium on luteal blood flow and pregnancy rates per artificial insemination in lactating dairy cows. J. Dairy Sci. 2021, 104:12105–12116. 

アイデアは多くの人の意見を聴くことが大事

前回の投稿に引き続き、アイデアの話です。続ける気持ちはなかったのですが、先日TVで似たような内容が放送されていましたので、メモの気持ちブログを書きました。

ユニクロがヒット商品を生み出すには一人の女性が大きく関わっていることが放送されていました。

その方曰く、

イデアができる三原則は、

①常識を疑う

②自分で決めない

③成功体験をリセットする

とのことでした。

特に②が印象的でした。

ひらめきではなく、多くの方々に話しかけ質問し商品に対してフィードバックをもらい、その中から指摘された、教えてもらったことを組み合わせる。人の話を良く聴くことが大切であることでした。

ひらめきこそ非常に危ないと。

自分の中では小さい過ぎる。

といった内容でした。

前回の投稿で読んだ本や先輩の話と内容と似ているなと思い、やはり周りの方から情報をとにかく得て、それを組み合わせることが大切なんだなと改めて思いました。

職場で自分に求められていること。「アイデア」と「企画力」。

新しい職場で、自分に求められていること、それが「イデア」と「企画力」。

正直なところ、自分はもともと頭が切れる人間でもなく、これらの能力が高いとは全然思えず、正直悩む毎日が続いています。

どうしたら皆に役立つアイデアを出せるのか?

どうしたら新しい斬新な企画を生み出すことができるのか?

ここに来てからの4週間では、なかなか思いつかず、思いつても大したことなくだれでも思いつく内容だったので、悩んだ結果、色々調べたり聞いたりしてみました。

その中で読んだ書籍の中の一冊と、お会いしたある方の言葉が似ていたので、その言葉をいつでも見れるようにブログに残しておこうと思いました。

書籍は、『アイデアの作り方(ジェームス・W・マキロン)(株式会社CCCメデイアハウス)

その中で示されたイデア作成の大切な原理(心得)とは、

①アイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせ以外の何物でもない

②新しい組み合わせを作り出す才能は、事物の関連性を見つけ出す才能によって練習で高められる

ということです。

この心得は、5つの階段があり、決して階段を飛ばしてはいけないということです。

ステップ①  資料集め、事実集め。

ステップ②  集めた資料を咀嚼し、意味を探す。二つの事実を並べパズルを組み合わせるように関係性を調べる。

ステップ③  一度頭から問題を完全に放棄し、短くは寝ること、別のことをする。

ステップ④  ステップ③が終わった後、常にそのことを考えていると予想しない時にアイデアが訪れる

ステップ⑤  現実社会で有用性にあるものとするため、理解ある人々の批判を仰ぐように表にだしていく。

これらの中でも特に①と②は意識的に行う行動であるため、やるかやらないか次第です。①と②を行えば大部分は進んでいます。

この本を読んだ後に、ある方とお話する機会を得ることができました。5時間、飲みながら色々教えていただきました。

「先生は、アイデアと企画力が非常にするどく抜きんでているとお聞きしました。どのようにいつも考えていらっしゃるのですか?」

その質問への先生の答えが、

「まずは、色々な、多くの人と話すこと。次に、話して集めた情報から、関連がありそうな事柄をいくつかに絞る。その時は、多くの人の役に立つ、つまり求められる人の数を意識する。限られた時間の中では、求める人の数を意識している。そして、その関連した情報を、例えば獣医療だったら、Pubmedやネットなどの検索サイトで、キーワードを入れる。ヒットしたら、このキーワードに関連するそれらの情報を読み、現状を把握する。それで、自分はここに何を新しく付け加えることができるのかを想像する。そしたら、色々見えてくることがあるとのことです。とにかく多くの人と話すこと。特に若い獣医師はするどい視点を持っているので一杯話したら良い」と教えていただきました。

書籍の①と②と似ているかと思いました。

そこで、まずは①の資料集めについて、この本では以下のように続きがありました。

資料は、2種類あり、特殊資料と一般的資料です。

特殊資料とは、セミナーや獣医技術(製品)についての資料と、それを広めることで習得してほしい獣医師(消費者)についての資料

一般的資料とは、人生とこの世の種々の出来事についての一般的知識。教養に近いと思います。

これらの資料が多ければ多い程、新しいアイデアを生み出せるチャンスが多くなるとのことです。

やるかやらないかなので、この職場で自分を活かすためにも、まずは、多くの色々な方と話したり、資料をたくさん集めることを始めていこうと思います。

最後までお読みいただきありがとうございます。

転勤

2007年にNOSAIに就職して16年、ずっと一つの診療所で仕事をしてきましたが、ついに転勤になりました。11月1日から新しい職場です。

長きに渡り、この地で私を育て応援してくださった診療所、農家さん、農協、普及センター、町役場、家畜保険衛生所の方々には感謝の気持ちで一杯です。

10年くらい過ぎたあたりから、毎年転勤のリーチがかかっていると思い、おこがましいですがいつ自分が抜けても大丈夫なように後輩に診療の仕事を任せたり、農家さんと仕事をしながら考え方や思いを共有して、抜けても町の文化として継続発展していけるように動いてきたつもりです。

途中、あまりにも任せ過ぎている行為を診療所内や農家さんから指摘され叱られたり、不満を持たせてしまったことがありました。その点についてはやり過ぎたと反省しています。「任せる」というのは奥が深く、程度が難しく、本当にどうしたら良いのかわからない、反省することが多いです。反省する回数、謝る回数、叱る回数が増えたのもこの5年くらいが本当に多かったです。

個人的に意識してきたのは、自分がやりたい牛の仕事(繁殖、栄養、子牛)を優先して後輩に引き継いで任せ、残ったやらないといけない仕事・自分の立場で求められている仕事(好きでも得意でもない仕事)を行うようにしてきました。当たり前ですが。

正直なところ、個人開業ではなく組織で仕事をしている以上、好きや得意に関係なく、大事にしないといけない心構えがあると、私は思います。

自分がその診療所で何を求められているのか?

自分が診療を担当する農家さんは、自分に何を求めているのか?

いつも考えて行動することだと、私は思います。

つまり、自分が所属する診療所や地域の農家さんに対して、自分が他の人よりも貢献できるフィールド・ポジション、力を発揮できそうな能力が何なのかを自分で探し見極め、そこに全力投球する。それが、診療所や農家さんへの貢献につながり、その結果承認される機会が多くなり、成長感や達成感をつかめ、幸せな気持ちになりやすいと、私は考えます。

私であれば、3年目くらいの頃、農家さんは牛の繁殖で困っていた、しかしこの診療所では牛の繁殖に飛び抜けて強い獣医師がいなかった、また私も牛の繁殖が好きでも得意でもない、が周りを見渡すと他の分野で貢献するよりもより貢献度(能力+機会)が高いかもという状況だったので、それだったら牛の繁殖を勉強しよう、と思いやってきました。それなりに勉強し研究し、診療所内では相談をうける機会が増えたし農家さんの繁殖成績向上にも貢献できたと思います。

しかしながら、これらは周りの獣医師や農家さんの状況を考えて決まったことです。もしも所属する診療所でさらに貢献度(能力+機会)が高い人がいたら、また診療所や農家さんから求められていなかったら、その時は、自分の進むべき道・貢献できる道・力を発揮できる道(才能)、を新たに探す必要があるとも思っています。才能は生まれつきの能力のようなイメージがありますが、周囲(診療所の仲間、農家さん)から認められる、評価されるような能力(能力)を行動として発揮している(機会)こと、と私は思います。

確かに全てが高水準や完璧を求められる職場も当然あります。しかしながら、所属する診療所や職場の状況次第では、全てが高水準や完璧ではなく、何かを尖らせたでこぼこのような感覚で良いのではと思います。

なので、次の職場での仕事をしていく中で、自分がここで何を求められているのか?をいつも考えて日々を過ごしていきたいと思っています。

次の職場は、今までと大きく異なり、農家さんへの往診ではなく、NOSAIに就職した全ての新人獣医師に対しての臨床研修NOSAIに所属する獣医師の人材育成について考えプランを作ったりする部署になります。

これまでの経験が活かせる場面もありますが、貯金で仕事をするのではなく、学び続けることを忘れないようにしたいです。その時に、何を学ぶのか、誰のために何を尖らせる、のかを見極めていきたいです。

職場は変わりますが、北海道にはいます。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。