だいさく NOSAI獣医日記

強みをみつけ、チャレンジを与えられる獣医でありたい

PG-PG-GnRH ショートシンク法

これまで、排卵同期化プログラムについて、①と②について説明させていただきました。今回は、PGF2α(以下PG)とGnRHを利用してより短期間で授精に向かうことができる③について、自分が後輩に教えることが出来る程度にまとめてみました。

  1. CIDRとエストラジオールを併用したプログラム
  2. オブシンク
  3. PG-GnRHショートシンク or PG-PG-GnRHショートシンク

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PGによって黄体を退行させ発情を起こし、授精に向かう方法は、臨床獣医師の先生方がもっとも多く利用する薬剤を使った繁殖管理法であると思います。

発情・排卵日をday0とした場合、day5や6であれば、形成中または形成された機能性黄体に対して、PGを投与すると黄体を退行させることが可能ですが(1,2)、day4ではまだ黄体は退行できないと報告されています(3,4,5,6)。

また黄体の大きさについても、直径17mmあればPGに反応することができ(7)、また、day5において多くの牛で黄体は20mm以上あることが示されています(8)。

よって、day5以上と判断した場合、PGF2α投与によって発情を誘起することが可能であると考えられます。

しかしながら、PG単発投与だけでは、発情時期を特定することができず(9)、2~9日の幅があることが報告されています(10)。授精率に関して、北海道道東地区の農場における調査では投与時に10mm以上の卵胞と20mm以上の黄体を持っているという条件を設定してもPG単発投与では80%程度であることが報告されています(11)。しかしながら、PG2日後にGnRHを組み込み、その1日後に定時授精を行うPG-GnRHショートシンク法を用いれば、授精率を100%に高め、その結果、妊娠率を向上させることができたと報告されています(11, 12)。

しかしながら、日本の繁殖検診を担当する臨床経験4~15年の獣医師へのアンケート調査では、PG投与時の卵巣所見は黄体にのみ着目が72%、GnRH製剤の併用はしないが88%という結果であり(13)、まだPG-GnRHショートシンクが広く利用されている状況ではないように思われます。

PG-(PG)-GnRHショートシンクにおいて、卵胞動態を考慮しない場合、受胎率の向上は期待できません(12)。しかしながら、超音波検査で黄体サイズだけでなく、PG投与時の卵胞動態を確認し、主席卵胞が10mm以上に発育している時点(11)、さらには10mm以上が2個以上ある時点でのPG投与によって受胎率が向上したと報告されています(14)。よって、卵胞動態を意識してPG投与日を決めることが高い受胎率を達成するためには重要であると考えられます。

また、10mm以上の卵胞数と発情周期の関係について10mm以上が1個の場合は5〜11日(第1卵胞波)、2個以上の時は13~19日(第2卵胞波)の牛が多いことが記されており(15)、卵胞サイズと数から発情周期を推定する一つの手段にすることができます。

発情周期特定の推測方法には、子宮の浮腫などの所見(16, 17)も重要になります。

また、第2卵胞波の主席卵胞が排卵した方が、第1卵胞波の主席卵胞が排卵した場合よりも受胎率が高かったと報告されています(18)。

つまり、まとめますと、繁殖検診当日に自分が推定した発情周期がもしも第1卵胞波であれば、その時点ではPGは投与せずに、第2卵胞波の主席卵胞が10mm以上に達した段階でPGを投与するように調整すれば受胎率低下のリスクを回避することができるのではないかと思い、その仮説を検証してみました。

Day5以上において、PG単発投与よりもPG24時間間隔の2回投与の方が黄体完全退行の可能性が高く、P4濃度をより低値に下げることが可能となり、受胎率が高まることが多数報告されています(19, 20)。これは以前のブログでも紹介させていただきました。

オブシンクで高い受胎率を得るために - だいさく NOSAI獣医日記

よって、PGを24時間間隔で2回投与を行う、PG-PG-GnRHショートシンク法で調査を開始しました。

調査結果を表でまとめてみました。

分娩後に明瞭な発情が観察されなかった,または,人工授精後に不受胎が確認されたのちに発情徴候を示さなかったホルスタイン搾乳牛4農場165頭を用いました。

Day5より前はPGに反応しない(3,4,5,6)ので、そのような牛は全頭PGの投与をday5以上に遅らせました。

Day10~13は、第2卵胞波の主席卵胞が選抜前or選抜中ですので、そのような牛は選抜が完了していると思われるday14以上(10mm以上)に全頭PGの投与を遅らせました。

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本研究において、受胎率に影響を与えた因子は、PG投与時の予測卵胞波(wave)であり、第2卵胞波でPGを投与した方が受胎率が高い結果となりました。多変量解析を用いたところ、産歴、分娩後日数、農家は、受胎率に影響を与えませんでした。

また、第2卵胞波でPGを投与するように調整した場合(144頭)、繁殖検診時の推定発情周期は受胎率に影響を与えませんでした。とにかく第2卵胞波の主席卵胞が選抜されるまで待ってからPGを投与するよう試みたということです。

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この方法を用いることによって、授精までの日数に少し時間がかかりますが、授精率100%かつ受胎率50%、妊娠率50%を超える可能性が期待できます。自分の診療区域では乳牛経産牛の初回受胎率が2020年度は53.9%ですので、それと同程度の受胎率を得られる結果でした。残念ですが、頭数がまだ少ないので、さらに調査を継続している段階です。NOSAI内での発表がありますので、まずはそこでここまでの内容を発表する予定です。

発情周期を推定するためには、訓練が必要であり、自分もいつも意識して周期を推定し、講習会や文献でまだまだ勉強しながら、後輩にも周期の推定の大事さを伝えています。自分たちに診療依頼がある以上、発情を誘起するだけではなく、一頭でも多く受胎してもらいたいです。そのために、超音波検査を用いて、発情周期をある程度推測する力を身に着けることによって、PG-PG-GnRHショートシンク法で高い妊娠率につなげることができるのではと期待します。

薬剤を使わずに、発情と受胎が上手くいくことが最も良いと思いますが、そう上手くいかない牛に対してはやってみる価値はあるのではと自分は思います。

最後までお読みいただきありがとうございます。

今回を含め計4回にわたり、排卵同期化プログラムについてまとめさせていただきました。

daisaku-nosai-hokkaido.hatenablog.com

daisaku-nosai-hokkaido.hatenablog.com

daisaku-nosai-hokkaido.hatenablog.com

排卵同期化に関する繁殖診療で悩んでいらっしゃる先生方や、これからやってみたい先生方の参考に少しでもお役に立てれば幸いです。

 

2023年12月の記事で本方法対しての改良案を検討しています。そちらも合わせてお読みいただければ幸いです。

daisaku-nosai-hokkaido.hatenablog.com

 

参考文献

  1. Wenzinger, B., Bleu, U. 2012. Effect of a prostaglandin F2α analogue on the cyclic corpus luteum during its refractory period in cows. Veterinary Research 2012, 8:220.
  2. Lane, E. A., Austin, R. A., Crowe, M. A. 2008. Oestrous synchronisation in cattle current options following the EU regulations restricting use of oestrogenic compounds in food-producing animals: A review. Anim Reprod Sci. 109:1–16.
  3. Rowson, L. E., Tervit, R., Brand, A. 1972. The use of prostaglandins for synchronization of oestrous in cattle. J Reprod Fertil. 29:145.
  4. Acosta, T. J., Yoshizawa, N., Ohtani, M., Miyamoto, A. 2002. Local Changes in Blood Flow Within the Early and Midcycle Corpus Luteum after Prostaglandin F2a Injection in the Cow. BIOLOGY OF REPRODUCTION 66, 651–658.
  5. Nascimento, A. B., A. H. Souza, A. Keskin, R. Sartori, and M. C. Wiltbank. 2014. Lack of complete regression of the Day 5 corpus luteum after one or two doses of PGF2α in nonlactating Holstein cows. Theriogenology 81:389–395.
  6. Levy, N., Kobayashi, S., Roth, Z., Wolfenson, D., Miyamoto, A., Meidan, R. 2006. Administration of prostaglandin F2α during the early bovine luteal phase does not alter the expression of ET-1 and of its type A receptor: a possible cause for corpus luteum refractoriness. Biol Reprod. 3:377–382.
  7. Repasi, A., Beckers, J. F., Sulon, J., Perenyi, Z. S., Reiczigel, J., Szenci, O. 2003. Effect of different doses of prostaglandin on the area of corpus luteum, the largest follicle and progesterone concentration in the dairy cow. Reprod Domest Anim. 38:423–428
  8. Miura, R., Matsumoto, N., Haneda, S., Matsui, M. 2019. Double ovulation rate of the first follicular wave follicles is higher in the first follicular wave dominant follicle in the ovary contralateral to the corpus luteum treated with human chorionic gonadotropin five days after estrus in lactating dairy cows. J Vet Med Sci. 81, 1685-1687.
  9. Larson, L. L. and Ball, P. J. H. 1992. Regulation of estrous cycles in dairy cattle: A review. Theriogenology. 38, 255–267.
  10. Moore, K., Thatcher, W. W. 2006. Major advances associated with reproduction in dairy cattle. J. Dairy Sci. 89, 1254–1266.
  11. 大塚 優磨, 西川晃豊. 2020. 黄体を有する乳牛における卵胞径に基づき処置を開始したShort-synch変法と定時人工授精の有効性. 家畜診療, 67, 5
  12. Funakura, H. Shiki, A., Tsubakishita, Y., Mido, S., Katamoto, H., Kitahara, G., Osawa, T. 2018. Validation of a novel timed artificial insemination protocol in beef cows with a functional corpus luteum detected by ultrasonography. J. Reprod. Dev. 64, 109-115
  13. 小川 明憲. 2020. 妊娠率向上につなげるためのPGF2α製剤を用いた定時人工授精に関する検討. 繁殖技術, 40, 2.
  14. 窪 友瑛, 高橋 透. 2019. 高い受胎率が期待できるショートシンク開始時の卵巣所見. 繁殖技術, 38, 4.
  15. 三浦 亮太朗. 2017. 牛卵巣内での卵胞の発育動態に着目した受胎性評価と繁殖成績改善の可能性. MPアグロ ジャーナル, 7, 22P
  16. Souza A. H., Silva, E. P., Cunha, A. P., Gümen, A., Ayres, H., Brusveen, D. J., Guenther, J. N., Wiltbank, M. C. 2011. Ultrasonographic evaluation of endometrial thickness near timed AI as a predictor of fertility in high-producing dairy cows. Theriogenology. 75, 722–733
  17. Sugiura, T., Akiyoshi, S., Inoue, F., Yanagawa, Y., Moriyoshi, M., Tajima, M. and Katagiri, S. 2018. Relationship between Bovine Endometrial Thickness and Plasma Progesterone and Estradiol Concentrations in Natural and Induced Estrus. Journal of Reproduction and Development. 64, 135-143.
  18. Denicol, A. C., G. Lopes, L. G. D. Mendonça, F. A. Rivera, F. Guag- nini, R. V. Perez, J. R. Lima, R. G. S. Bruno, J. E. P. Santos, and R. C. Chebel. 2012. Low P4 concentration during the development of the first follicular wave reduces pregnancy per insemination of lactating dairy cows. J. Dairy Sci. 95:1794–1806.
  19. Borchardt, S., Pohl, A., Carvalho, P. D., Fricke, P. M., Heuwieser, W. 2018. Short communication: Effect of adding a second prostaglandin F2α injection during the Ovsynch protocol on luteal regression and fertility in lactating dairy cows: A meta-analysis. J. Dairy Sci. 101:8566–8571.
  20. Gatius, F.D. 2021. Clinical prospects proposing an increase in the luteolytic dose of prostaglandin F2α in dairy cattle. J. Reprod. Dev. 67, No 1.