だいさく NOSAI獣医日記

強みをみつけ、チャレンジを与えられる獣医でありたい

未経産牛に対するPGF2αの2回投与の効果

馬の繁殖シーズンが終わり、やっとこさ早朝の勉強時間を確保できるようになりました。

今回の文献紹介ですが、いきなり結論です!

未経産牛への発情7日目でのPG投与による発情誘起は、連続2回投与が良い。

教科書にも載っているし、昔から良く行われている発情終わって7日目の発情誘起法ですが、今一度考えなおす価値があると感じました。

自分は過去のブログで、PGの2回投与の有効性を紹介してきました。

 

daisaku-nosai-hokkaido.hatenablog.com

 

daisaku-nosai-hokkaido.hatenablog.com

しかしながら、未経産牛において、PG2回投与は効果がなかったという報告があり、また個人的にも1回投与でも受胎率が悪くなかったので、未経産に対しては1回投与を続けていました。

しかし、未経産牛において、PG-GnRHショートシンクを用いて1回目の授精を行った後、その1週間から10日後くらいに再度発情がきて、2回目の授精を行った牛がいました。どっちの発情が本物(つまり授精のタイミングが合っている)だったのかを、2回目授精後数日で確認したところ、子宮と卵巣の所見が、明らかに2回目授精時の発情が本物だったことが判明した経験をしました。

これはつまり、1回目の授精では排卵せず、2回目の授精時に排卵できる卵胞に育ったことを結果的に意味すると考えます。これでは、1回目の授精では排卵が起こっていないため当然受胎しません。

また、主席卵胞が閉鎖した直後にPGを投与してしまい、新しい卵胞が育ち発情がくるまで1週間かかってしまったという、PGを投与する時期の判断を自分が誤ってしまった可能性も考えられました。

そこで、未経産に対するPG投与について調べたところ、2022年6月に掲載というホットな参考文献がありました。

引用元は、以下です。

www.sciencedirect.com

この文献では、発情7日目の未経産牛に、2種類のPGF2αをそれぞれ1回または2回(24時間間隔)投与し、排卵までの時間や排卵率、完全黄体退行率、黄体の血流、血中プロジェステロン濃度を調べていました。

PGF2αの種類は、クロプロステノール(CLO)(Estrumate)500μg、ジノプロスト(DIN)(Lutalyse)25mgです。

結果は、特にジノプロストの1回投与(DIN×1)が良くないという内容でした。

まずは、黄体退行についてです。

DIN×1でも、黄体退行は進んでいますが、その程度が他の群に比べて弱い結果でした(下の図)

完全黄体退行の血中P4濃度を<0.5ng/mlとした場合、完全黄体退行率は、

CLO×1 84.6%、CLO×2 100%、DIN×1 59.7%、DIN×2 96.3%、とDIN×1が非常に残念な結果でした。

それにより、ジノプロスト1回投与では、血中プロジェステロン濃度の低下が弱くなってしまいました。またクロプロステノール1回投与も、黄体退行の程度は悪くないですが、48~72時間後の血中プロジェステロン濃度の低下は2回投与の方がより強い結果でした。(下の図)。

また、黄体血流も調べられていましたが、血中プロジェステロン濃度と似たような流れでした。血中プロジェステロン濃度と黄体血流は正の相関関係があります。

そして、その影響をうけたためか、ジノプロスト1回投与では、PG投与後168時間(7日)たっても排卵に至れない牛が、なんと45%いたことです。

他の群は、88%~100%の牛で排卵に至れたので、ジノプロスト1回は圧倒的に低かったです。

なぜ、排卵にいたれなかったのかについて、考察されていました。

血中プロジェステロン濃度の上昇は、排卵前卵胞の自発的なLHサージを抑えてしまい、また外因性のGnRH製剤への反応においてLHの放出が減少してしまいます。

それゆえ、完全な黄体退行が起きなかった牛は、LHサージ不足により排卵までの時間が遅れた(PG投与後7日以内に排卵しなかった)可能性を考察しています。しかしながら、ジノプロスト1回投与でも完全黄体退行した牛は、他の群同様に、PG投与後70時間前後で排卵していました。

クロプロステノールとジノプロストの違いについても、この論文で少し説明されていました。

違いは3つで、①半減期、②代謝経路、③黄体にあるPG受容体への親和性です。

半減期

クロプロステノール 3時間

ジノプロスト 9分

代謝経路

クロプロステノール 内因性PGと異なる代謝経路

ジノプロスト 内因性のPGと同じ代謝経路

③黄体にあるPG受容体への親和性

クロプロステノールの方が高い

この違いによって、クロプロステノールの1回投与は、完全黄体退行と排卵する牛の割合が、ジノプロストよりも増加した可能性もあるのではと推測されていました。

それに関連して、完全な黄体退行ができた牛に限っては、クロプロステノールは投与後最初の18~36時間は、プロジェステロン濃度の低下がジノプロストよりも早かったが、54~72時間たつとその差はなくなるという結果でした。

未経産牛に対して、PG投与後どのような卵巣動態になっているのかを勉強できる内容の文献でした。

現場で活かせるところもあるので、この内容を考慮しつつ、繁殖検診を続けていきたいと思います。

この文献は全文無料でダウンロードできますので、詳しい参照文献などを知りたい先生方は、上記の引用元から参照していただければと思います。

 

(結論)

未経産牛への発情7日目でのPG投与による発情誘起は、連続2回投与が良い

 

次回は、PGとしてジノプロスト1回投与で受胎率が良くなる可能性を示した文献があるので、ご紹介できればと考えています。

最後まで読んでいただきありがとうございました。