だいさく NOSAI獣医日記

強みをみつけ、チャレンジを与えられる獣医でありたい

勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし

プロ野球の世界で多くの人財を遺された故野村克也監督の書籍にあった言葉です。もともとは、江戸時代後期の肥前国平戸藩の藩主である松浦静山の剣術書、『常静子剣談』の中の一節からの言葉であることを後に知りました。

サッカーをしていた経験からも、本当にその通りだなと思いました。

 

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」

 

獣医療を勝ち負けで区別するのは、あまり好きではないですが、

勝ち:治療や予防がうまくいった。農家さんとのコミュニケーション・連携がうまくとれた。

負け:治療や予防がうまくいかなかった。農家さんとのコミュニケーション・連携がうまくいかなかった。

と自分は区別して、この言葉を考えてみました。

 

最高の治療の定義が曖昧ですが、牛や馬を治す治療方法は、担当する獣医師や農家さんで様々であり、最高の治療でなくても、牛や馬が治癒することは実際の臨床現場では正直よくあることで事実です。なので、この治療方法なら、治る・うまくいく(勝てる)というのは人や動物の数ほど様々で、どれが良いの程度を本当に決めるのは難しいと自分は思います。また、いろいろな治療・予防を行ったけど、最終的にどの治療・予防がうまくいったか、なぜ治療・予防が成功したのか、成功の要因を考察し次につなげることは皆さん行いますが、その要因がよく分からない時もあると思います。

しかしながら、治癒しなかった・うまくいかなかった(負ける)場合には、必ず理由があるということを、この言葉は教えてくれます。

その理由とは、ここではつまり、やってはいけない・やったらダメになる診断や治療・予防法だと自分は思います。

 

自分はこのような経験がありました。

仔馬のロドコッカス感染症で、半年以上治療し、1歳になるまで治療を続けた馬がいました。最終的に、この馬は死亡しました。この馬の前にも、ロドコッカス感染症で慢性経過をたどり死亡した馬を診てきました。

なぜ死亡に至ったのかを考えたところ、

①初診時に肺のエコー所見を診て重症度をチェックしていなかった。

②経過観察するにあたっては、血液検査結果の基準がまだ甘かった。

③抗菌性物質の投与量は普通より少し多めの量で行っていたが、まだ足りない可能性が高かった。

この3つが、特に②と③が、やったらだめになる可能性が高まると自分は考えました。

そのため、それ以降、初診時に肺の状態をエコー所見で確認し、重症度をチェック。その後、治療を継続するかしないか、だめになる可能性が高い血液検査の基準をこれまでの馬たちを参考に設定し、それをクリアできなければ継続。また投与量もさらに増加しました(ある先輩獣医師は2倍にしていました)。

これを守っていくと、発症はしますが、再発がなく上手くいけています。

 

自分の知る限り、正直なところ、やってはいけない・やったらダメになる診断や治療・予防法教科書に書いていないことが多いと思います。

先人の獣医師先生方の報告や文献などには記載されていることはあるので、やはり文献を読むことは非常に大事です。

さらには、最も身近な診療所の先輩獣医師が後輩に教え、また後輩獣医師は受け身ではなく積極的に先輩獣医師に聴き、そのような関係性をもって代々受け継がれていくべきものだと自分は思います。

正直、うまくいった治療や予防、コミュニケーションよりも、うまくいかなかった治療や予防、コミュニケーションの方が、自分は記憶に残っています。これは自分だけではないと思います。

先輩獣医師は、これまでに多くの牛や馬の治療を行い、うまくいかなかったケースを知っています。そのたびに、なぜうまくいかなかったのか反省し考えてきています。

なので、誰が対応してもだめになってしまう可能性が高い治療や予防方針、コミュニケーションを後輩獣医師に伝えていくことにより、牛や馬がだめになる可能性を限りなくどんどんゼロに近づけることを目指すべきだと感じます。

その中には、実はそうではなく、今現在はやったほうが良いというものもあると思います。一概に、やってはいけない・だめになる方法と決めつけて、何も考えないのも問題だと思うので、疑問を持つことは大事だと自分は思います。

良くなる治療方法は、皆でたくさん知恵を出し合えば、無限にあります。どれが最高かは自分はわかりません。なので自分は、皆が同じ治療を行うよりも、農家さんとコミュニケーションをしっかりとった上で、個性やクセがあっても良いと考える方の人間です。

しかしながら、良くならない治療方法は、一人一人内省し、それを皆に伝えて、だめになる可能性を減らすことを皆で継続していくことが大事だと自分は思います。

後輩がそれを続けたら良くならない、と自分が気づいたことは気づいてもらうために伝えていきたいと思います。

まだうまく伝わっていないことが本当に多いですが(泣:反省)。頑張ります!