だいさく NOSAI獣医日記

強みをみつけ、チャレンジを与えられる獣医でありたい

PGF2α投与タイミングを早めることで発情強度を増加

卵胞ウェーブが出現してからPGF2αを投与するタイミングを少し早めることで発情強度を増加させる、という2023年の12月公開という論文の紹介です。

www.ncbi.nlm.nih.gov

研究の目的は、卵胞ウェーブ出現から黄体退行までの期間を短くすることにより、より若い状態で排卵させることで、受胎性を向上させたいということでした。残念ですが、受胎率まではこの論文では検証されておらず、その前段階の話です。

研究者の仮説は、

卵胞波の出現から黄体退行誘導までの時間を短縮すると、

排卵前の卵胞が小さくなり

②誘導された黄体退行後の E2 濃度が高くなり

③発情の強度が増し、発情期間が長くなる。

もしそうであるならば、発情同期化(排卵同期化)プログラムの変更につながり、乳牛の繁殖性を向上させる可能性がある、という非常に興味深い内容でした。

実際に、自然発情で授精に向かった場合、卵胞ウェーブに関係なく卵胞発育期間が受胎性に影響を与える報告があり、受胎牛の方が不受胎牛よりも約 1 日短かったとのことです(1)。このように、LHサージ時の排卵前卵胞の発育期間は、その卵胞内の卵母細胞の受胎能力に重要な役割を果たしている可能性があることが報告されています(2)。

この研究は、ダブルオブシンクでの最後のPGF2αをGnRHから7日目ではなく5日目に投与することで、卵胞ウェーブ出現からPGF2αまでの日数を短縮し、より若い卵胞で授精へという流れでした(実際には授精は行っていません)。

以下が検証プログラムです。

 

ダブルオブシンクでの検証プログラム(RAA:reduced antral age 5日でPGF2α)

その結果、d0(PGF2α投与日)では、やはり卵胞の成熟度がまだ満たないのでE2濃度も低いですが、PGF2α投与後のE2濃度の上昇率が約1.5倍という結果でした。d2でのE2濃度自体は差はありませんでした。

RAAによるE2濃度のへの影響

そして、PGF2α(d0)投与から8日以内での発情検出率は、RAA群(5日)で80.4%、コントロール群(7日)で64.0%であり(p<0.09)であり、RAAの方が発情を示しやすい傾向がみられました。また、2個排卵率は、RAAで11/41(27%)、コントロール群で7/39(18%)で統計的に差はなかったとのことです(が27%は高く問題では、と私は思いました)

発情検知は、頚に装着するタイプの活動計でモニターされました。

また、実際のd2での卵胞サイズは、 RAA群で13.5 ± 0.4 mm 、コントロール群で15.1 ± 0.4 mmと有意な差がありました。若いといってもほとんどが12㎜以上はあるため、もしGnRHを投与しても排卵できるサイズではあります。

d2(PGF2α投与から2日後)の卵胞サイズ(RAAではE2と関係する)

また、黄体退行に関してですが、クロプロステノールを2回しています。そして、この論文では1回目が1.0㎎と通常量は0.5㎎なため2倍量を投与しています。このように投与量を高めると、若い黄体(5日目の黄体)でも退行させることができると他文献(3-5)を参考に考察されていました。

P4濃度とその変化率(黄体退行関係)に差は認められなかった

そして、本論文のまとめを示したのが、PGF2α投与後2日のE2濃度(左側)またE2濃度の変化率(右側)と発情の予測確率の関係です。縦軸が発情の予測確率で1.0に近いほど発情を示す可能性が高いことを意味します。

d2(PGF2α投与2日後)でのE2濃度またE2濃度変化率と発情検出率の関係

これらの結果をまとまえると、ウェーブ出現からd5でしたら主席卵胞になって1日くらいのところ(10㎜~12mmくらい)なため、その時点でPGF2αを投与した方が、発情が強く、発情検出しやすくなる、つまり発情発見率、授精率の向上につながり、妊娠率の向上にも寄与すると思われました。受胎率はこの論文ではまだですので、そこは検証しなければなならいと思います。

私自身はダブルオブシンクを利用する機会がないのですが、自然サイクルでも応用できそうな気がしました。ダブルオブシンクでの授精は、自然発情における第2ウェーブ目の牛での授精に似ていると私は思っています。それゆえ、自然なサイクルの牛において第2ウェーブの牛がいたら、15mmくらいに育ててPGF2αを投与するよりも主席卵胞の選抜が終わった次の日くらい(11mm)でPGを投与した方がその後発情が強く発見率も高くなり、せっかくPGF2α投与したにも関わらず発情がこなくて授精できず今回は残念でした、という事態を少しでも避けることができるのではと思ってしまいました。獣医師が関わった以上、その治療後に授精に向かうのであれば授精率は限りなく100%に近づけることは非常に大事にしたいところだと私は思います。しかしながら、注意点があり、主席卵胞が選抜される前や直後にPGF2αを投与したら、2個卵胞が選抜され双子になってしまう可能性が高まってしまうため、若い卵胞が良いとはいえそこは気をつけようと思いました。

ご興味のある方は、全文無料でダウンロードできる文献ですので本記事最初のURLから参考にしていただければ幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

参考文献

  1. Bleach, E. C. L., Glencross, R. G. & Knight, P. G. Association between ovarian follicle development and pregnancy rates in dairy cows undergoing spontaneous oestrous cycles. Reproduction 127, 621–629 (2004).
  2.  Cerri, R. L. A., Rutigliano, H. M., Chebel, R. C. & Santos, J. E. P. Period of dominance of the ovulatory follicle influences embryo quality in lactating dairy cows. Reproduction 137, 813–823 (2009).
  3.  Brusveen, D. J., Souza, A. H. & Wiltbank, M. C. Effects of additional prostaglandin F2α and estradiol-17β during Ovsynch in lactating dairy cows. J. Dairy Sci. 92, 1412–1422 (2009).
  4.  Minela, T. & Pursley, J. R. Effect of cloprostenol sodium dose on luteal blood flow and volume measurements in Holstein heifers with both day-4 and day-10 corpora lutea. J. Dairy Sci. 104, 9327–9339 (2021)
  5.  Santos, J. E. P., Narciso, C. D., Rivera, F., Thatcher, W. W. & Chebel, R. C. Effect of reducing the period of follicle dominance in a timed artificial insemination protocol on reproduction of dairy cows. J. Dairy Sci. 93, 2976–2988 (2010).