黒毛和種繁殖農場さんで、発情が来ない、受胎しにくい、受胎しても途中でいなくなる、などの繁殖障害で悩まれている農家さんの問題解決のため、まず現状把握するにあたって給与されている牧草成分の分析や代謝プロファイルテストを行うことがあります。
そこでいつも難しいなと思うことが、自家産牧草の成分(大きくは、炭水化物とタンパク質)は本当にバラツキが大きいなという点です。
牧草成分の他の細かい点は今回は割愛いたします。
No1~32の牧草は全て北海道の私が担当している地域(複数の農家さん)で分析された1番牧草で、これをタンパク質(CP)が多い牧草の順に並ると、最も高いのは14.8%、低いのは4.7%と実に3倍以上もタンパク質含有量が異なり、本当にばらついていることが理解できます。
一方、炭水化物の一種である牧草中の非繊維性炭水化物(NFC)(デンプンなど)もばらつきが大きいことが分かりました。さらに、飼料中に含まれる「エネルギー」を評価する指標の一つであるTDN(可消化養分総量)は、一番牧草では、NFCと相関が強いこともわかりました。
つまり、1番牧草において飼料中のNFCが低い牧草はパワーが足りない可能性が高いということがこれらの牧草からは推察されます。
今回、分娩後授乳期間(約100日)が終わった離乳後の繁殖牛で、自然発情がこない、受胎しにくい、受胎しても後期胚死滅が増加、などの繁殖障害があり、その問題解決に動きました。
今回の農場で使用されていました一番牧草の成分を確認してみると、
乾物率 88.9%
TDN 53.2%
CP 10.5%
NFC 13.8%
とあり、特にNFCが低いことがわかります。
では、NFCが低い牧草の給与が続くとどのような不都合があるのでしょうか?
①NFCが低い→ルーメン内でのプロピオン酸(血糖の主原料)産生量が少ない→最終的に血糖値低下に関与→血糖値低い→性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分泌が抑制される、ケトーシス→繁殖に関するホルモン低下
②NFCが低い→ルーメン内微生物の栄養源が足りない→微生物が元気ない→ルーメン内アンモニア利用量低下→ルーメン内アンモニア過剰→肝臓での処理でエネルギーロス、肝臓障害、ルーメン微生物環境悪化→肝機能低下、微生物タンパク質量低下→使えるタンパク質量低下→繁殖に関するホルモンの輸送低下、卵胞・卵子への弊害
他にも弊害はありますが、繁殖に対しては大きくはこのような流れが考えられると思います。
特に②については以下の図で農家さんに説明しています。
今回の離乳群(分娩後100日以降)においては、④の可能性が高く、その給与餌の影響が代謝プロファイルテストにどう影響しているのか確認したところ、血糖値が低い、尿素窒素が高い、遊離脂肪酸増加、肝臓障害(AST,γGTP増加)、アルブミン低い、βリポタンパク質低い、等みられました。
このような粗飼料分析結果と代謝プロファイルテスト結果を考慮して、給与する餌の種類と量の変更をご相談させていただきました。
育成の餌を含め、配合飼料を3種類お持ちでしたので、配合飼料の中でもタンパク質が比較的低く、NFCが比較的高めの餌(育成の餌)を併用し、増量も行いました。
しかしながら、NFCを高めるすぎるとアシドーシスの可能性か高まるため程度には要注意です。
この変更が繁殖成績の改善につながるように今後も観察検証を続けていきたいと思います。