だいさく　NOSAI獣医日記

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オブシンクで高い受胎率を得るために

繁殖 繁殖障害治療 研究

オブシンクが開発されて27年経過しますが、「高い受胎率を得るために」、世界中で様々なアイデア、試験が報告されています。

乳牛での利用が多いので、乳牛に関するこれまでの文献を参考に、自分が後輩に教えられる程度にまとめてみました。

 

報告されている大きな考え方は、まとめると3つだと思います。

  • 最初のGnRH（G1）で確実に排卵させる。
  • G1→PGF2αまで高めのＰ4濃度を維持する。
  • 2回目のGnRH（Ｇ2）時や授精時のＰ4濃度を限りなく下げる。

 

まず、①の最初のGnRH（G1）で確実に排卵させる、について説明します。

オブシンクは新規卵胞波を誘導して同期化させることが最初に重要です。Ｇ1で排卵することによって新規卵胞の同期化をより成功させることが可能となるので、その結果受胎率が向上することが多く報告されています（1, 2, 3, 4, 5）。

特に、発情周期のday5〜9で開始するとG1での排卵率が高いことが報告されています（6, 7）。また前処置としてGnRHによる排卵を行い、それから6日目にオブシンクを開始すればG1による排卵率が高いことも報告されています（4, 5, 8）。

また第2ウェーブが開始しその卵胞が主席を獲得するまでの数日の期間は、卵胞が小さいためG1で排卵できず、新規卵胞波を誘導することができないため、同期化の目的が達成できません（6）。

また、周期を特定しないでオブシンクを開始した場合、10～15％はオブシンク中に早期に黄体退行が起きてしまい、定時授精前に排卵してしまいます（5, 9）。特に、第2ウェーブの後半で開始した牛では特に黄体退行が早期に起きてしまうことが報告されています（6）。

 

G1での排卵について、①LHサージの大きさ、②卵胞のLH反応性が指摘されています。

LHサージの大きさについて、GnRHやLHの投与量を多くすれば排卵率が高まります（3, 8, 10） 。

卵胞のLH反応性において、主席卵胞のサイズが10mmでLHに対する反応を獲得していても、その後サイズが大きくなるにつれてLH受容体の量も増加します（11, 12, 13）。しかしながら、G1時に10ｍｍ以上ある牛の71％しか排卵しなかった(14)とも報告されており、サイズだけではG1による排卵は保証されないと言われています。その要因として、G1時のＰ4濃度が影響しています（14）。G1時にP4濃度が低いとLHサージのピーク時濃度が高P4の牛に比べ5倍も大きいことが報告されています（10）。これは、低Ｐ4濃度がLHパルス頻度を増加させ、LH受容体の発現を増加させ、GnRH誘導性のLHサージへの排卵反応を増加させた可能性が考えられるとのことです（14）。実際、G1で排卵した牛は、排卵しなかった牛に比べ、G1投与時のP濃度が低く、黄体の大きさがより小さいことが報告されています（14）。

 

まとめますと、第1ウェーブで黄体がまだ強くなく、主席卵胞が育っているステージ、そうなるとday5〜7くらいの牛に対してオブシンクを開始することが大事ということになると思います。そうなると、現場で良く遭遇する分娩後発情がこない牛、妊娠診断で陰性確認した牛などに対しては、その牛が発情周期のどのステージにいるのかを見極める力が必要になると思います。ステージの見極め方については、今後まとめていきたいと考えています（MPアグロ ジャーナル 2017.07, 22Pの三浦亮太郎先生の記事は、卵巣所見から考える発情周期の見極めの参考になるのではと思います）。

 

次に、②のG1→PGF2αまで高めのＰ4濃度を維持する、について説明します。

卵胞発育中のP4濃度が受胎性（15, 16, 20）や受精卵の質（15, 17, 18）に影響を与え、また排卵後の発情周期における黄体期の短縮が起きる（17, 19）ことが報告されています。

低P4濃度環境はLHの分泌を促進する（19）ため、そのような環境で卵胞が発育すると卵子が成熟するのを早めてしまい卵子の老化（エイジング）が起きてしまうと言われています（16）。実際にどの程度のP4濃度で影響が出てくるのかですが、P4濃度が≥1.87ng/ml（15）、≥2ng/ml（17）、3ng/mlの状況下で卵胞が発育すると、受胎率や胚の質が良く、<1ng/mlのような環境では良くないと報告されています（16）。1～2ng/mlでは、胚盤胞まで成長する割合にわずかな減少がみられたとのことです（18）。黄体を持っていない牛に対してオブシンクを行った場合は、G1での排卵率は高いけれども、受胎率は低下し、そのような牛は卵胞発育中のP4濃度が＜2ng/mlでした（20）。さらにP4製剤を用いてP4濃度を補充し、血漿中濃度を≥2ng/mlに上げることによって、G1時に黄体を持っていなかった牛の受胎率を改善したと報告されています（20）。

様々な論文を用いたメタ分析においても、P4濃度が受胎性に影響を与えることが指摘されています（21）。

しかしながら、正直なところ、日本の臨床獣医師の先生方は、黄体を持っている牛に対してオブシンクを使用されてることが多いのではと思います。それゆえ、P4濃度が低くLHの分泌が促進され、卵子がエイジングを起こすような＜1ng/mlや1～2ng/mlの牛に対して行っているとはあまり考えにくいのではと思います。オブシンク開始時に黄体を持っている牛のP4濃度は、低くても>2ng/mlはあるようです（14, 15, 20, 22, 24）。

また、卵胞嚢腫など黄体を持っていない場合に対しては、CIDRを併用されている方が多いのではと思います。卵胞嚢腫の場合、黄体はない状態ですが、CIDRを併用したオブシンクや、GnRHを投与し黄体を形成してからオブシンクを開始する方法によってP4濃度を高めた状態でオブシンクを開始する方法は、ただオブシンクを開始する方法に比べ受胎率が向上することが報告されています（23）。しかしながら、黄体をすでに持っている牛に対しては、オブシンクにCIDRを併用しP4をさらに補充したところ1.3ng/mlを上乗せできましたが、受胎率自体は向上しなかったと報告されています（24）。

それゆえ、日本の臨床繁殖現場におけるG1→PGF2αまでのP4濃度に影響を受けるのは、受胎率というよりも、2個排卵の可能性ではないかと自分は考えました。

たとえ≥2ng/mlでも、その範囲でより高いP4濃度で卵胞が育った牛に比べると、より低いP4濃度では2個排卵の可能性が高まります（25）。そのような牛は、最初の受胎率は高いのですが、双子妊娠の影響により胚死滅率が高く、結局分娩する頭数は同じになったという報告があります（24）。分娩頭数は同じですが、酪農家さんでは双子妊娠は求められていなく、また胚死滅した後に再度授精なので分娩間隔の延長も起きてしまいます。

それゆえ、G1→PGF2αまでのP4濃度は高く維持することが大切だと考えられます。

 

2個排卵については、過去のブログ記事（2個排卵する理由 - だいさく NOSAI獣医日記）（2個排卵を防ぐために - だいさく NOSAI獣医日記）を参考にしていただければと思います。

 

最後に③の、2回目のGnRH（Ｇ2）時や授精時のP4濃度を限りなく下げる、について説明させていただきます。

授精近くのP4濃度が高まってしまうと子宮内膜、精子の輸送、卵子、受精卵に対して都合の悪い環境が作られ、受胎性に悪影響があると指摘されており（27）、授精近くにおけるP4濃度が十分（<0.5 ng/mL）に下がりきらないと受胎率が低下します（28, 29, 30）。

また、オブシンクにおいて、7日目のPGF2αの1回投与ではP4濃度が下がりきらないことが指摘されています（3, 29）。

そのため、オブシンクにおける7日目のPGF2α（ジノプロスト25㎎）を24時間間隔で2回投与（7日目、8日目の2回）、また7日目に倍量投与（ジノプロスト50㎎）し、黄体退行を確実に行う方法が受胎率に良いと報告されています（31）。しかし、G1→PGF2αまでの日数を5日とした場合、2回PG投与は黄体退行をしっかり誘導できましたが、PG倍量投与では黄体の完全退行は厳しいとう内容でした。

また、前処置を行うことによってオブシンクの開始を第1ウェーブの後半から開始した場合、7日目のPG2倍量投与は7日と8日の2回投与と受胎率は同等でしたが、前処置をせずにいきなりオブシンクを始めた場合、7日目のPG倍量投与は、7日と8日の2回投与の牛に比べ、受胎率が低い結果となりました（32）。周期を特定しないでオブシンクを開始した場合、G1による排卵ではなく、それ以降のオブシンク中に排卵が起きて、新しい黄体が形成され、PGF2αにまだ反応が弱い初期の黄体が7日目のPGF2α投与時に存在していた可能性が考えられます。実際、オブシンク中に早期に黄体が退行し排卵し、新しい黄体が形成されてしまう牛がいることが報告されています（5, 6, 9)。

このように、PGF2α投与1回よりも2回投与や倍量投与による受胎率向上は多くの論文、またメタ分析でも有効性が報告されています（33, 34）が、倍量投与と2回投与は今も研究が続けられている状況です。少しでも牛を保定したり、注射回数を減らすことができれば牛と人両方にとって良い状況が生まれますので。

自分自身、PGF2αの2回投与で、受胎率が向上するのは本当に実感していますし、周りでも話は聞きます。なので、次のステップとして、超音波検査で周期を見極めることができれば、PG1回の倍量投与でも受胎率を高められるのか今後調べていきたいと思います。

 

オブシンクで高い受胎率を得るための考え方、実践法について、後輩に教えることが出来る程度に自分なりにこれまでの文献を参考にまとめさせていただきました。少しでも繁殖プログラムを利用した診療のお役に立てれば幸いです。

 

参考文献

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