世の中に排卵同期化プログラムは色々あり変法もでていますが、自分の知る限り日本で主軸となっているのはこの3つではないかと思います。
- CIDRとエストラジオールを併用したプログラム
- オブシンク
- PG-GnRHショートシンク
前回は①を説明させていただきました。
今回は②のオブシンクについて、自分が後輩に説明できる程度にまとめてみました。
牛の繁殖診療を行う獣医師にとって、オブシンク(Synchronization of ovulation)は、行ったことがなくても教科書で学んだり、耳にされた経験はあるのではと思います。
まずは、基本的な流れについて説明させていただきます(1, 2)。
- 現時点で存在する主席卵胞に対して、GnRHを投与し排卵させ、新しい卵胞波を生み出す。
- 高いP4濃度下で卵胞を育てる。
- ある程度卵胞が発育した段階でPGを投与し黄体を退行させ、P4濃度を下げる。
- 排卵誘起を促し、定時授精する。
次回で説明させていただきますが、①が確実にできるかどうかが、オブシンクで高い受胎率を得るために欠かすことができないスタートになります。
実践されている具体的な基本形が以下のプログラムです(1,3)。
0日目AM GnRH
7日目AM PGF2α
9日目PM GnRH (PGF2α投与56時間後)
10日目AM 人工授精(2回目のGnRH投与16-20時間後)
0日目でGnRHを投与することで、1.6~2.5日(約2日)後に新しい卵胞波が出現します(1, 4)。卵胞波として動員された卵胞は性腺刺激ホルモン依存的に発育を続け、 1 日当たり 1.5~2.0 mm の速度で発育していきます(5)。最初から存在した黄体を含む、新たに排卵し形成された黄体も7日後にはPGF2αの1回投与に反応できる状態であるため、PGF2αを投与しP4濃度を低下させます(6)。P4濃度が下がった時点でGnRHを投与しLHサージを誘導し、投与後約28(24~32)時間で排卵するため(1)、GnRH投与16~20時間で定時授精を行います(7)。精子は雌牛の生殖器内で受精能を獲得するまで授精してから8~10時間が必要ですが、その後24時間以上生存可能です。しかしながら卵子は、排卵後8時間程度しか活力がありません(8)。それゆえ、卵子が排卵してくるころには精子が受精能を獲得した段階にしておくことが、受胎率にとって重要な要素になるので、GnRH後16~20時間で定時授精を行うことが推奨されています(7, 8)。また、新しい卵胞波が出現して主席卵胞が発育するには日数がかかりますが、定時授精するまでに日数を伸ばし過ぎても卵子がエイジングし受胎率が低下する(https://daisaku-nosai-hokkaido.hatenablog.com/entry/2021/12/22/070510を参照してください)ので、現時点では10日目に定時授精することは自分の調べる限り最も基本的な方法です。
基本的なオブシンクの理論とその流れについて、これまでの報告を参考にまとめさせていただきました。
次回は、「オブシンクで高い受胎率を得るためには」で続けたいと思います。
参考文献
- J R Pursley, M O Mee, M C Wiltbank. 1995. Synchronization of ovulation in dairy cows using PGF2alpha and GnRH. Theriogenology. 44:915-23.
- M C Wiltbank, R Sartori, M M Herlihy, J L M Vasconcelos,A B Nascimento,A H Souza,H Ayres, A P Cunha,A Keskin,J N Guenther,A Gumen. 2011. Managing the dominant follicle in lactating dairy cows. Theriogenology. 76:1568-1582.
- M G Colazo, R J Mapletoft. 2014. A review of current timed-AI (TAI) programs for beef and dairy cattle. 55:772-80.
- M F Martinez, G P Adams, D Bergfelt, JP Kastelic, RJ Mapletoft. 1999. Effect of LH or GnRH on the dominant follicle of the first follicular wave in heifers. Anim Reprod Sci. 57:23–33.
- O J Ginther, D R Bergfelt, L J Kulick,K Kot. 2000. Selection of the dominant follicle in cattle: role of estradiol. Biol. Reprod. 63, 383~389.
- J S Stevenson, J A Sauls, L G D Mendonça, B E Voelz. 2018. Dose frequency of prostaglandin F 2α administration to dairy cows exposed to presynchronization and either 5- or 7-day Ovsynch program durations: Ovulatory and luteolytic risks. J Dairy Sci. 101:9575-9590.
- J R Pursley, R W Silcox, M C Wiltbank. 1998. Effect of time of artificial insemination on pregnancy rates, calving rates, pregnancy loss, and gender ratio after synchronization of ovulation in lactating dairy cows. J Dairy Sci. 81:2139–2144.
- S LeBlanc. 2001. The Ovsynch Breeding Progratn for Dairy Cows - A Review and Econotnic Perspective. THE BOVINE PRACTITIONER. 35, NO.1.