だいさく NOSAI獣医日記

強みをみつけ、チャレンジを与えられる獣医でありたい

2個排卵を防ぐために

前回は、2個排卵する理由について、現段階で主流と考えられているホルモン動態について説明させていただきました。今回は、2個排卵しないためのホルモン処置の考え方と方法について、これまでの文献を参考に、自分が後輩に説明できる程度にまとまめていきたいと思います。

今現在、最も基本とされている報告は、

卵胞発育段階において、プロジェステロン濃度を高めてLHのパルス状分泌を抑えることで2個選抜されるの防ぎ、排卵卵胞が2個育つのを防ぐ

とう考え方です。

 

プロジェステロン濃度をとりあえず高めるためにどうすればいいのでしょうか?

ひとつは、高泌乳能力への改良→乾物摂取量の増加→肝臓でのステロイドホルモン代謝速度の増加に対して、食べさせないで代謝速度を遅らせるというアプローチはどうなのか考えてみました。

それに関する文献では、乳牛において短期間でも絶食すると末梢血中のP4やE2濃度が上昇するとありました(1)。これを考慮すると、P4やE2が卵胞発育段階で上昇する環境では、インヒビンがしっかり分泌され、LHのパルス状分泌も抑制されるので主席卵胞が2個育つ環境にはなりにくい可能性が考えられます。しかし残念なことに、この文献では絶食すると脂肪肝のリスクも引き起こしてしまうとのことなので、この作戦は難しいのかなと自分は思いました。

 

そうなると、乳量の出ない牛群へとなりますが、これは今の乳牛では厳しく、また自分がコントロールできる範囲ではないので、申し訳ないですが今回は考察にいれていません。

 

そうなると、自分が診療でコントロールできるのは、2個排卵しにくいホルモン処置なのかなと思います。

これまで多くの研究報告がありますが、それらをまとめると、次の2つでした。

①ダブルオブシンク

②PGを投与するなら、第1ウェーブではなく、第2ウェーブで。

 

①ですが、ダブルオブシンクについて少し説明します。

最終的にはオブシンクで授精に向かうのですが、予め一度オブシンクをかけGnRHで排卵させ、GnRH投与7日後に授精に向かうためのオブシンクを再度かけます。この方法を用いると、授精に向かうためのオブシンク中はP4濃度が高い状態になっているのでその中で卵胞が選抜、発育する仕組みになります。自然排卵の牛の第2ウェーブの卵胞が育つホルモン環境と似ています。通常のオブシンクでは、2個排卵の確率は14%で、40㎏以上乳量がでている牛は20.2%、40㎏未満は6.9%と報告されています(2)。オブシンクを行っても、そのオブシンク中のプロジェステロン濃度によって2個排卵になる可能性が有意に異なり、高P4濃度だとその確率は減少します(低P4:高P4、初産牛 20%:10%、経産牛 26%:14%)(3)。また、ダブルオブシンクを行っても、授精に向かう後半のオブシンク初期にPGを投与して黄体を退行させ低P4濃度になるように処置をすると、2個排卵の確率が3倍に上昇(高P4:低P4、10%:33%)してしまいました(4)。

このように、高いP4濃度で卵胞を育てることができるダブルオブシンクを適切に行うことで、2個排卵を予防できる可能性を高めることができると言われています(5)。

 

②ですが、これも卵胞発育中のP4濃度が影響していると言われています。

第1ウェーブと第2ウェーブの卵胞が発育し、最後にPGを投与し授精+GnRHに向かうことを想定して前処置したプログラムにおいて、2個排卵の確率は第1ウェーブで有意に上昇しました(第1ウェーブ:第2ウェーブ、33.6%:19.5%)(6)。卵胞発育段階でのP4濃度は、第2ウェーブを想定したプログラムでは、卵胞波出現時ですでに高P4でスタートできますが、第1ウェーブは低い状態で始まっていました。しかしながら、第1ウェーブを想定したプログラムの牛に2個CIDR(1.38g×2)を入れた場合、第2ウェーブを想定した牛と同等のP4を維持でき、その結果2個排卵の確率が19%と抑えることができました(6)。

これらを考慮すると、「出血して1週間くらいなんだ」という臨床現場では良くある牛に対して、何もみないでPGを投与すると2個排卵させてしまう可能性が少し高まってしまうのではと自分は想像しました。なので、超音波検査で主席卵胞が2個育っていないことを確認した上でのPG処置はそれを防ぐ方法になるのではと思います。でも第1ウェーブの卵胞に対してPGを投与し授精に向かった場合、受胎率が低い(6)ので自分は行っていません。

 

つまり、乳牛の2個排卵を防ぐ方法として獣医師である自分ができることは、

①ダブルオブシンクを使う。

②P4濃度をより高く維持できるCIDRやPRIDを使う。

③第2ウェーブでPGを投与する。

④第2ウェーブでもエコーで主席卵胞が明らかに1個だけ育っているのを確認してからPGを投与する。

⑤第2ウェーブにおいて、選抜が終了し、他の卵胞が育たず、主席卵胞が1個だけ育っている時期を予測してPGを開始する。

自分は、卵巣のサイクルが回っていると判断した牛に対しては、この中でも③④⑤をほぼ主軸とし、手ごたえを感じています。

回っていない場合は②を使います。

今後、さらにいい方法があるか、また自分の行っている方法の結果についてもまとめていきたいと思います。

良い考え方や方法があれば色々教えていただければうれしいです。

 

参考文献

(1) M Ono, T Ohtaki, K Tanemura, M Ishii, G Watanabe, K Taya, S Tsumagari. 2011. Effect of short-term fasting on hepatic steroid hormone metabolism in cows. J Vet Med Sci. 73:1145-9.

(2) P M Fricke, M C Wiltbank. 1999. Effect of milk production on the incidence of double ovulation in dairy cows. Theriogenology, 52:1133-43.

(3) A P Cunha, J N Guenther, M J Maroney. 2008. Effects of high vs. low progesterone concentrations during Ovsynch on double ovulation rate and pregnancies per AI in high producing dairy cows. J. Dairy Sci 91, E-Suppl1:246 abstract.

(4) D Carvalho, V G Santos, H P Fricke, L L Hernandez, P M Fricke. 2019. Effect of manipulating progesterone before timed artificial insemination on reproductive and endocrine outcomes in high-producing multiparous Holstein cows. J. Dairy Sci. 102:7509–7521.

(5) P M Fricke. 2015. Double vision: management of twinning in dairy cows. THE AABP PROCEEDINGS. VOL.48.116-124.

(6) A C Denicol, G Lopes Jr.,L G D Mendonça, F A Rivera, F Guagnini, R V Perez, J R Lima, R G S Bruno, J E P Santos, R C Chebel. 2012. Low progesterone concentration during the development of the first follicular wave reduces pregnancy per insemination of lactating dairy cows. J. Dairy Sci. 95 :1794–1806