だいさく NOSAI獣医日記

強みをみつけ、チャレンジを与えられる獣医でありたい

2個排卵する理由

自分の知る限り、双子分娩を望まれている酪農家さんはあまりいないように感じます。

双子妊娠を少しでも避けるためには、まず双子になる理由を考えないといけません。自分も頭の整理ができていないので、今回もう一度整理しようと思いました。

牛の双子はほとんどが二卵性双生子と言われています。実際、ウィスコンシン州での調査では、一卵性双生子の出現頻度は、全双子の4.7%、同性双子の7.5%であると報告されています(1)。

つまり、2個排卵さえ起きなければ、双子妊娠する確立は限りなく低いことが想像できます。自分の経験でも、一卵生双子は乳牛で1回だけありました。

ここから、2個排卵する仕組みを、これまでに有力とされている文献を参考に、自分が後輩に説明できる程度にまとめていきたいと思います。

現代の乳牛は乳量が出るように改良され、それゆえ乾物摂取量が増加せざるを得ない、乾物摂取量が増加すると肝臓での血流量が多く、肝臓でのホルモン代謝エストロジェンやプロジェステロンと言った性ステロイドホルモン)が速くなり、そのため血中の性ステロイドホルモン濃度が高い値を維持しにくくなります(2)。

そのような状況ではFSH(卵胞刺激ホルモン)やLH(黄体形成ホルモン)の分泌への抑制が低下します。

特に、多排卵した牛たちは、主席卵胞選抜前でのインヒビン濃度が低く、それゆえ卵胞選抜前のFSH分泌の抑制が甘く、FSH濃度を低い値まで下げるのが遅れます。FSH濃度が下がるのが遅れた結果、FSHの作用が働いてしまい卵胞が2個以上育つ可能性を高めます(過剰排卵処置の考えと似ています)(3)。

このインヒビン濃度がなぜ低くなるのかは、まだ明らかになっていませんが、これも前述の高泌乳による乾物摂取量の増加からの肝臓ホルモン代謝が影響していると推測されています(3)。

また、プロジェステロン(P4)濃度が低い場合、下垂体からのLH(黄体形成ホルモン)の分泌が促進されます(4,5)。LHは黄体形成ホルモンと呼ばれてはいますが、卵胞発育に非常に重要な役割を果たします。特に、主席卵胞選抜近くで低P4濃度であると2個以上卵胞が選抜される可能性が高まり(3,6)、そこで2個排卵以上の可能性がまず高まり、主席卵胞選抜後も低P4下ではLHのパルス状分泌がより頻繁になるため卵胞発育が促進され、卵胞サイズを大きくし、排卵に至ると報告されています(7)。

簡単にまとめるとこのようなホルモン状態になっています。

次回は、2個排卵しないためのホルモン処置についてまとめていきたいと思います。

 

参考文献

(1) Silva N, Kirkpatrick BW, Fricke PM. Observed frequency of monozygotic twinning in Holstein dairy cattle. 2006. Theriogenology. 15;66:1292-9

(2) Sangsritavong S, Combs DK, Sartori R, Armentano LE, Wiltbank MC. High feed intake increases liver blood flow and metabolism of progesterone and estradiol-17beta in dairy cattle. 2002. J. Dairy. Sci. 85:2831-42

(3) Lopez H, Sartori R, Wiltbank MC. Reproductive Hormones and Follicular Growth During Development of One or Multiple Dominant Follicles in Cattle. 2005. Biol. Reprod. 72(4):788-95

(4) Cerri RLA, Chebel RC, Rivera F, Narciso CD, Oliveira RA, Amstalden M, Baez-Sandoval GM, Oliveira LJ, Thatcher WW, Santos JEP. 2011. Concentration of progesterone during the development of the ovulatory follicle: I. Ovarian and embryonic responses. J. Dairy. Sci. 94:3342-51

(5) Cerri RLA, Chebel RC, Rivera F, Narciso CD, Oliveira RA, Amstalden M, Baez-Sandoval GM, Oliveira LJ, Thatcher WW, Santos JEP. 2011. Concentration of progesterone during the development of the ovulatory follicle: II. Ovarian and uterine responses. J. Dairy. Sci. 94:3352-65

(6) Wiltbank MC, Souza AH, Carvalho PD,  Cunha AP, Giordano JO, Fricke PM, Baez GM, Diskin MG. Physiological and practical effects of progesterone on reproduction in dairy cattle. 2014. Animal. 8:s1, 70–81

(7) Martins PM, Wang D, Mu N, Rossi GF, Martini AP, Martins VR, Pursley JR. Level of circulating concentrations of progesterone during ovulatory follicle development affects timing of pregnancy loss in lactating dairy cows. 2018. J. Dairy Sci. 101:10505–10525