だいさく NOSAI獣医日記

強みをみつけ、チャレンジを与えられる獣医でありたい

卵胞が主席性を獲得してからの期間と受胎性

昨日は、プロジェステロン(P4)の留置期間について考察しました。

これまで、卵胞が発育する過程におけるP4濃度はLH濃度(卵胞を発育させるホルモン)に影響を与えることが知られており、結果卵胞サイズや卵子の成熟後にも影響を与えることが分かっています。この影響を最も指摘されているのが乳牛です。乳牛は乾物摂取量が多く、ホルモンの肝臓での代謝が速いために、血中P4濃度を高く維持するのが以前より難しいため、卵胞が少し低P4下で育ってしまい、卵子が少しエイジングを起こす可能性があると言われています。

しかしながら、このような論文がありました。

引用元 pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

2009年に発表されたこの論文は肉用牛ですが、卵胞発育段階でのプロジェステロン濃度は受胎性に影響がなかったという報告でした。

実験デザインです。P4製剤を開始するときにEB(安息香酸エストラジオール)を投与します。そして、開始時にPGF2αを投与して低P4グループを作り、PGF2αを投与しない高P4グループに分けて、卵胞を育てました。卵胞波発現(4mm)はともに4日目でしたが、主席性を獲得する8mm以上になるのは、低P4グループで6日目、高P4グループで8日目と差がありました。8日目にP4製剤を除去し、10日目に排卵促進剤とともに人工授精を行っていましたが、10日目の時点でも卵胞サイズには差がありました。P4とLHの関係も調べていたのですが、これまでの報告と同様に、低P4グループの方がLH濃度が高い結果でした。排卵卵胞サイズも大きいため、授精後に7日目の黄体の大きさも大きく、その黄体からのP4濃度も高かったですが、重要なのは受胎率は変わらなかったという結果でした。排卵率がともに80%と差がないことから、卵胞サイズよりも排卵率が受胎率に影響を与えていると本論文では考察されていましたが、これは自分の黒毛和種経産牛でも同様に排卵するかしないかが受胎性にとって重要なキーワードでした。

さらに、この論文でP4濃度に差があったにもかかわらず受胎率に差がなかったことに対して指摘されていたもう一つが主席性の期間でした。最後の方で、本論文において、卵胞の主席性が長期でない場合、低P4環境が受胎性を低下させなかったことは注目に値することだったと述べられていました。実際、低P4でも主席性を獲得してから4日で授精(排卵誘起)、高P4では2日で授精(排卵誘起)されていました。主席性を獲得してからの期間が1~4日が高い受胎性を秘めており、10日過ぎると良くない、8日より短いことが適切な期間であるという報告が過去にあります(昨日の参考文献)ので、主席性が適度であったことはやはり重要なポイントになったのかなと思います。

今回の論文からにおいては、発情同期化や定時授精で重要なポイントは、排卵率と主席性を獲得してからの期間の2つが考えらえますが、P4濃度の影響も多くの論文で指摘されています。

よって、高い受胎率を得るために意識すべき点をまとめますと、

排卵

②主席性を獲得してからの期間

③P4濃度

この3つについて、肉牛や乳牛で区別して考えることも大事なのかと自分は思いました。