だいさく NOSAI獣医日記

強みをみつけ、チャレンジを与えられる獣医でありたい

授精5日後のhCG投与時の卵巣所見は・・・受胎率に影響する

なかなか受胎しない牛や、受精卵移植をするときに、授精または発情5日後に、hCG(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)を投与したり、CIDRを挿入したりして受胎率を向上させようとする技術は多くの獣医師や農家さんが使用されていると思います。自分もかなり使用します。しかしながら、このhCGを投与する技術を行った場合でも、その時の牛の卵巣の状態で受胎率が変わってくるという報告があります。今回はその論文の紹介をさせていただきます。

引用元 pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

自分が尊敬する牛の繁殖の先生であり、さらにはおもしろく楽しいまで併せ持った先生である三浦亮太郎先生の論文(2018年)です。

この研究では4農場の臨床的に健康な搾乳牛(平均産次:2.4±1.5、授精時の分娩後日数125.4±62.6日)で調べられていました。つまり、リピートブリーダーなどではありません。599頭の搾乳牛中、授精5日後に8mm以上の卵胞がなかった牛はたった2頭だけ(つまり、5日後には99.7%の搾乳牛が8mm以上を持っているということです)で、黄体がすでに2つあった牛は20頭(つまり2個排卵した牛は3.3%)いましたが、それらの牛22頭は試験から除外したとのとです。また、8mm以上の卵胞があり、試験に供用できた牛では、hCGに対して第1ウェーブの主席卵胞は排卵できた(1農場の結果ですが、65/65で100%)とありました。

先生が注目されていたのが、授精時に排卵してできた黄体と同じ側に第1ウェーブの主席卵胞が育っているのか、黄体と逆側に育っているのかで受胎率にどう影響を与えるのかでした。

結果、受胎率には差があったとのことです。同じ側であれば、受胎率28.4%、逆側で48.5%でした。

次に、授精5日後にhCG(1500IU)を投与したら受胎率がどう変化したかですが、未投与群が33.3%、投与群が41.6%で投与群の方が有意に向上しました。

さらに、ここからが重要です。

黄体と同側に主席卵胞があった場合は、①未投与群で21.4% ②投与群で40.6%

黄体と逆側に主席卵胞があった場合は、③未投与群で51.7%、④投与群で43.0%

であり、①が②③④よりも受胎率が有意に低く、②③④は有意差がなかったという結果でした。つまり、黄体と同じ側に主席卵胞が育った場合にのみ、hCGは効果があったとのことです。

先生方の考察ですが、黄体と同じ側に主席卵胞があると、その卵胞からエストラジオールという卵胞ホルモン(本来は発情時に必要なホルモン)が放出され、卵管や子宮に影響を与え、受胎性に悪影響を及ぼしているのではないかと推測されていました。また、黄体がある卵巣と同じ側にある卵管や子宮角の子宮内膜組織は逆側に比べ、プロジェステロン(妊娠ホルモン)濃度が高いと言われています。よって、同側に卵胞がある場合に何も処置をしなかった牛に比べ、hCGを投与することで、黄体が形成され、同じ側にある卵管や子宮におけるプロジェステロン(妊娠ホルモン)がさらに高まり、受胎性が向上したのではないかと推測されていました。第1ウェーブの主席卵胞が子宮や卵管などの局所にどのような影響を与えているのかさらなる研究が必要と最後に述べられていましたが、非常に興味深い内容でした。

 

臨床現場で毎回エコーを使うのは、正直、時間が少しかかることやエコー料金などの問題がありますが、この技術が必要な場面があったときに使えるように、情報として持っておくことは大事かなと自分は思いました。