だいさく NOSAI獣医日記

強みをみつけ、チャレンジを与えられる獣医でありたい

子牛がミネラルを舐めるのはなぜか?

この2日間で体重の話を続けていますが、生まれた子牛たちの体重や体格についてもちょっと考えることがありました。

生後7日くらいから14日の母牛同居の黒毛和種子牛で、下痢で悩まれている農家さんがいらっしゃいました。その農家さんから、餌箱に置いているミネラル(亜鉛マンガン、銅などを含む)の粉を子牛たちがしばしば舐めるんだと教えていただきました。確かに子牛たちは舐めていました。子牛たちの下痢の原因は、大腸菌やクリプトでした。

さらに、聴き取りを続けていると、「生まれた時に特に体格が大きい子牛が、下痢の程度が強い印象」であるとのことでした。昔から壁や柵、土などを舐めるのはミネラルが足りていないからと自分は教わってきたので、体格が大きいとより多くのミネラルが必要になるのかな、ミネラル不足による下痢なのかなと自分は想像しました。血液検査では免疫に関するIgGは検査の結果非常に高い農家さんですが、ミネラルに関してはお金もかかるのでその時は検査していませんでした。

有機ミネラルを分娩前の親と子牛に給与することと、鉄剤を投与することにしたら、1日程度は軟便になることがありますが、獣医師が治療する程度の下痢はなくなりました。

ここからが本題なのですが、昔から牛を含む生き物で伝えられている

①「ミネラルが不足するとそのミネラルを補うために舐めるというのは科学的にも証明されているのか」

②「体格の大きい牛はミネラルをたくさん求めるというのは科学的に証明されているのか」について、

牛で調べてみましたが、自分は①は牛では調べきれませんでした。が、少し古いですが1996年にラットによる実験の報告がありました。②は牛での報告がありました。

まず①についてです。

引用元 pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

短時間ですがカルシウムが欠乏状態にされたラットは、欠乏していないラットに比べ、カルシウム、鉄、鉛を舐めたとの研究結果でした。

またナトリウム(塩)が欠乏状態にされたラットもまた、欠乏していないラットに比べナトリウムを舐めました。ナトリウム欠乏ラットは、鉄の舐め率も高かったとのことです。

この論文では、まとめとして、カルシウム欠乏ラットは、カルシウムや他のミネラルを体に供給するために、生まれつき持った経口で摂取するという能力(本能)を使ったのではないかと示されていました。

 

次に②についてです。

「搾乳牛における舐塩の行動学的・生理学的意義」(2007年)小木野瑞奈先生のグループ。引用元  https://doi.org/10.20652/abm.43.3_154

産次が高い牛ほど舐塩(塩以外の他のミネラルも含む製剤)行動が有意に多く(相関係数0.50)、体重が重い牛ほど舐塩行動が有意に多かった(相関係数0.55)とのことでした。

 

これらから考えると、もし餌箱に置いているミネラル製剤や、鉄の柵、土などを舐める子牛がいたら、その子牛たち(さらにはその子牛たちが胎子であるときの妊娠末期の母牛)はミネラルが足りていない可能性があるのかな、さらには体重の重い子牛はもっと必要としているのかな、また以前よりも生まれる子牛たちが大きくなっているので、以前よりもミネラル関係について考え直す時期にきているのかなと、自分はこの経験から思いました。