だいさく NOSAI獣医日記

強みをみつけ、チャレンジを与えられる獣医でありたい

分娩予定日15日以内の黒毛母牛の血液検査で、子牛の初乳獲得免疫を予測?!?!

特に黒毛和種子牛の下痢症を予防するためによく言い伝えられていますのは、

①妊娠末期の母牛の栄養管理(1)

②初乳の十分な摂取

③哺乳管理

④ワクチネーション

⑤飼養環境管理

などがあると思います。

この中で個人的に興味があるのが、①が絡んだ②です。

はため問題のないように見える母牛が問題なく産み、はため虚弱でもなく普通に母初乳を飲んでいるように見えるその新生子牛は、どれくらい初乳で免疫を得ることができるのか?です。

乳牛であれば搾乳で初乳の総タンパク質(TP)や糖度(Brix値)を検査し初乳の質を確認できますが、黒毛和種繁殖牛の場合は搾乳ができる牛もいればできない牛もいるため、農場内で継続的に行うことは基本的には困難を思われます。なので、初乳から予測することは難しいのではと思われるため、それ以外の方法で初乳から獲得する免疫を予測できる方法はないか、たまたま別件で調べていたデータを再度まとめ直したところ、少し可能性のある検査が見つかりました。

分娩予定日15日以内に入った妊娠牛とその母牛から生まれた子牛の血液中の総タンパク質濃度を比較したところ、下のグラフのような関係がみえました。

分娩予定日15日以内の母牛総タンパク質と子牛総タンパク質の関係

赤枠が子牛の血液中総タンパク質が5.3g/dL未満、黄色が5.3~6.0、が6.1以上です。

黒毛和種子牛の場合、血液中のIgGが20g/L未満では受動(初乳)免疫移行不全と言われており、初乳から得られる免疫に強い問題があることが報告されています(2)。

IgG20g/Lは、総タンパク質に換算するとだいたい5.3g/dlとなります(赤枠)。

さらに、黒毛和種子牛の場合、そもそも下痢症になりにくいのは、IgG30g/L以上が推奨されており、総タンパク質に換算すると6.1g/dL以上になります(緑枠)。新生子牛の総タンパク質6.1g/dLとなると、母牛の総タンパク質は約7.5g/dLとなります。

このように、子牛の総タンパク質濃度がどの枠に入るかで下痢症の程度に影響があります。

このような結果から、分娩15日以内に入った繁殖牛を採血すれば、その母牛から生まれる子牛の総タンパク質濃度を予測し、下痢症を未然に予防できるのではないか!?と想像しました。

そして、もし繁殖牛の総タンパク質濃度が7.5g/dL以上であれば、強い下痢症になってしまう可能性が低いことが期待されます。しいて言えば、さらに初乳製剤を追加すればより免疫を増強でき、下痢症にそもそもならない牛に育つことができるのではないかともちょっと想像しています。

一方、特に問題なのが赤枠の子牛総タンパク質5.3未満の子牛です。繁殖牛の総タンパク質濃度が7.3以下になると、緑や黄色の枠に入る牛もいますが、赤枠の子牛総タンパク質5.3未満に入る牛がでてきてしまいます。

農場の経営方針等にもよりますが、分娩予定日15日以内に血液検査を行い、総タンパク質濃度が7.3以下だった場合には、その母牛の分娩時から24時間以内での初乳製剤の追加等を考慮した管理をあらかじめ準備しておくことも、下痢症による損失を防ぐための一つの方法になる可能性があるのではと考えます。まだまだ例数や実験デザインなど不十分な結果ですので、今後より検討していく必要があります。

実際、妊娠末期の繁殖牛の餌管理は初乳の質や吸収、移行免疫に影響を与えることが報告されています(3-6)。それゆえ、分娩15日以内の血液検査で繁殖牛の総タンパク質濃度が低いと出た場合、分娩まで餌やサプリメントなどで栄養管理を調整すれば、初乳製剤を追加給与する必要もなく母初乳からだけでも免疫が十分な子牛になれる、という状況を作り出すことができれば良いなとも先手医療として可能かどうか気になっています。

現在の仕事場として、現場での調査がすぐにやりにくい環境にいるため、もしご興味のある方がいらっしゃいましたら、子牛の下痢症に対する先手医療として、ぜひ調査を続けていただければ幸いです。また、ご協力させていただればなお有り難くうれしいです。

 

参考文献

  1. 佐野公洋, 子牛の腸炎対策<2>黒毛和種繁殖雌牛の飼養管理による対策, 家畜診療, 2024, 71(1), 19-26
  2. 新盛英子, 滄木孝弘, 石井三都夫, 生後7日齢の子牛における血清IgGおよびTP濃度を用いた受動免疫移行不全の診断, 2013, 産業動物臨床医誌, 4, 1-7
  3. Blecha F, Bull RC, Olson DP, et al., Effects of prepartum protein restriction in the beef cow on immunoglobin content in blood and colostral whey and subsequent immunoglobin absorption by the neonatal calf, 1981, J Anim Sci, 53, 1174-1180
  4. Hough RL, McCarthy FD, Kent HD, et al., 1990, Influence of nutritional restriction during late gestation on production measures and passive immunity in beef cattle, J Anim Sci, 68, 2622-2627 
  5. Immler M, Failing K, Gärtner T, et al., Associations between the metabolic status of the cow and colostrum quality as determined by Brix refractometry, 2021, J Dairy Sci, 104, 10131-10142
  6. Rossi RM,  Cullens FM,  Bacigalupo P, et al., Changes in biomarkers of metabolic stress during late gestation of dairy cows associated with colostrum volume and immunoglobulin content, 2023, J Dairy Sci,  106, 718-732