初乳給与は、子牛の発育と疾病予防にとって絶対欠かせない非常に大切なイベントです。
これは、これから数年~数十年後もまだそうかなと自分は想像します。
現時点では当然のことですので、新しい情報提供というわけではありませんが、初乳がどれほど大事かを改めて自分の肌で感じる出来事がありましたので、次に生かしていくため、また世の畜産関係者の皆様の今後に少しでもお役にたてるように、データとしてまとめようと思いました。
この内容は、1年に1回ある2月の所属NOSAI内での発表がありますのでそこでの内容になる予定です。
【背景】
ある農家さんで事情により、雌の新生子に限って娩出直後に母牛から直ぐに離すことで母乳の初乳とその後の移行乳(生後5日程度までの、初乳から通常の母乳に徐々に切り替わるまでの大事な母乳)を与えず、代わりに初乳製剤を出生当日に給与し、生後2日目からは普通の代用乳を給与するようになりました。
しかしながら、その影響のためか、雌子牛の腸炎と呼吸器病の治療で悩むことが多くなりました。マイコプラズマによる中耳炎や肺炎で2-3年悩まされていましたので、そこに追い打ちをかけるような状態でした。
今回、初乳と移行乳が子牛の疾病に与える影響を検討するために、
「母初乳と移行乳を与えないことによって移行抗体が不足し、腸炎が増加し体力と免疫力が低下したことで中耳炎を含む呼吸器病に罹患しやすくなった」
と仮説を立て調査しました。
【材料と方法】
この農家さんは、事情前は生後5日まで親と同居した後、離乳しハッチまたロボットでの代用乳給与という飼養形態の農家さんです。事情後は、雄子牛は従来通り生後5日で早期母子分離を行いました。雌子牛は生後直後に母子分離し初乳製剤(IgGとして200g)を24時間以内に(可能な限り早期に)給与し、雌雄子牛ともに離乳まで代用乳を給与しました。
初乳製剤による移行免疫を評価するために、事情前の過去3年間の新生子牛(母初乳摂取群354頭)と事情以降に生まれた初乳製剤給与群10頭の血清総蛋白質(TP)、血清γGlb濃度を比較しました。
この1年間で生まれた子牛(雄101頭、雌78頭)の疾病記録を共済のカルテ記録より抽出しました。腸炎は生後30日以内、呼吸器病(中耳炎、気管支炎、肺炎)は哺乳期間中に発症した牛を対象としました。
呼吸器病発症以前の腸炎罹患の有無が呼吸器病に与える影響を検討するため、腸炎罹患率、腸炎罹患の有無に対する呼吸器病の発症割合、発病日齢、初診から終診までの平均日数、平均診療費を雌雄で区分し比較しました。
【結果】
①血清TP値と血清γGlb値
母初乳摂取群 5.8±0.8㎎/dl、1.5±0.7㎎/dl
初乳製剤給与群 4.9±0.7㎎/dl、0.8±0.4㎎/dl
であり、初乳製剤給与群は両値とも有意に低い値でした。
雄子牛 9%(9/101)
雌子牛 27%(21/78)
であり、雌子牛が有意に高かったものの、
呼吸器病の罹患率は、
雄子牛 51%(52/101)
雌子牛 58%(45/78)
で有意差はありませんでした。
ここでの腸炎の罹患とは、獣医師の治療(注射や点滴)を必要とする程度の罹患で、農家さんによる内服薬(生菌剤や電解質)での自家治療の子牛は含まれていないことをご理解ください。
③腸炎罹患の有無に対する呼吸器病の発症割合
腸炎罹患雄子牛 67%(6/9)
腸炎非罹患雄子牛 50%(46/92)
腸炎罹患雌子牛 62%(13/21)
腸炎非罹患雌子牛 56%(32/57)
であり、有意差はありませんでした。
④腸炎罹患の有無に対する呼吸器病の発症日齢
腸炎罹患雄子牛 43±18日
腸炎非罹患雄子牛 50±23日
腸炎罹患雌子牛 46±21日
腸炎非罹患雌子牛 45±21日
であり、有意差はありませんでした。
⑤初診日から終診日までの平均日数
腸炎罹患雄子牛 9.3±13.0日
腸炎非罹患雄子牛 10.9±11.4日
腸炎罹患雌子牛 19.1±15.8日
腸炎非罹患雌子牛 6.5±5.0日
であり、腸炎罹患雌子牛と腸炎非罹患雌子牛の間にのみ、呼吸器病に対する統計学的に有意な差が認められました。下のグラフは箱ひげ図で表し、異符号間で有意差ありです。
⑥初診から終診までの平均診療費
腸炎罹患雄子牛 14,900±10,162円
腸炎非罹患雄子牛 16,597±20,488円
腸炎罹患雌子牛 27,367±18,355円
腸炎非罹患雌子牛 11,581±8,410円
であり、腸炎罹患雌子牛と腸炎非罹患雌子牛の間にのみ、呼吸器病に対する統計学的に有意な差が認められました。下のグラフは箱ひげ図で表し、異符号間で有意差ありです。
【考察】
周知の事実ではありますが、母牛の初乳摂取が移行抗体獲得に良い影響を与え、腸炎罹患率を低下させたことが本調査においても考えられました。
過去の文献等では、初乳による移行免疫の程度が、腸炎の罹患率に影響を与え、その後の呼吸器病への影響があると記されていますが、本調査では、雄子牛でみられたように母初乳と移行乳を確実に摂取しさえすれば、腸炎を患ってもその後の呼吸器病での重篤度には影響がないことが示唆されました。
また、初乳摂取や腸炎罹患の単独の有無だけでは呼吸器病への影響はなく、この1年間における雌子牛で確認されたように、たとえ市販の初乳製剤を給与しても、母初乳と移行乳を摂取できず、さらに腸炎を罹患した場合には、呼吸器病がより重篤になることが判明しました。
【まとめ】
母初乳とその移行乳が大事!
そして腸炎にさせないこと!
これは新人の頃から教わり、実感することが本当に多いですが、このように数字でみると、改めてやはり大事なんだなと思いました。
初乳が大事、となると分娩前の母牛の管理につながりますが、そのことについては別の機会でお伝えしていきたいと考えています。
最後までお読みいただきありがとうございました。