同期化された泌乳牛における、受精卵移植時の受胎率向上作戦として、興味深い文献(2023年)がありました。
高いP4(プロジェステロン)濃度下で卵胞が発育し、授精時は限りなく低いP4濃度で授精する、という流れが泌乳牛の人工授精(AI)での受胎性にとって非常に重要(1)、という話はよく聞きます。
また、卵胞が発育するときのP4濃度は回収受精卵の質にも影響があることも言われています(2)。
また、受胚牛(レシピエント牛:recipient)において、排卵時に発情があった(強い)方が移植での受胎率が高い、こともよく言われています(3)
しかしながら、(1)のAIで言われている高いP4濃度下で卵胞が発育し、発情時(排卵時)には限りなくP4濃度を下げる、という流れが、同期化をかけた場合の受胚牛にも当てはまり、受胎率にとって重要なんだ、という話はあまり聞いたことがありませんでした。
この文献はその点を検討されています。
目的として、以下の2つを挙げられていました。
①プログラムの最後に2回目のPGF2αを追加投与することで、黄体退行が改善され、排卵時のP4濃度がさらに低下し、受胎率が向上することを検討する
②E2/P4プログラムの開始時にGnRHを追加投与するとで、新たな黄体が形成され排卵前卵胞の成長中のP4濃度が変化し、受胎率が向上するかどうかを検討する
供した牛は、
泌乳中のホルスタイン種(初産牛130頭、経産牛371頭(計501頭))
60日間のVWPを過ぎて、また空胎である牛(分娩後日数167±84.9日)
プログラムは以下になります。
大きな結果としましては、
①PGF2αを2回投与した方が、発情発現と排卵率が上昇し、ETに向かえる牛が増加
②ET前の発情周期中に排卵卵胞が高いP4濃度で発育し排卵した牛では受胎率が高かった
発情があった方がd0でのP4濃度が低く、排卵率が高いこともうかがえます。
1回目のPGF2αを投与する時(CIDR開始後7日目)のP4濃度が3.66以上が否かもETの受胎率に関係していました。
しかしながら、GnRHを処置したからといって、新しい黄体ができる牛が増えましたが、それは半分程度なため、ETの受胎率を向上させることにはつながらなかったとのことです。本当にP4濃度を高めるなら、CIDRを2つ入れる、または、GnRHで確実に排卵させ黄体形成させるために事前に同期化をかける、という追加の作戦が必要との文献では説明されています。E2CIDRプログラムでは、CIDR処置中に黄体が退行する場合がありますので、そのあたりも考えて対策を練れば、何か改良に繋がるかもと思いました。そういうことであれば、もし自分だったら、2ウェーブ目の牛の卵胞を発情誘起させ、確実に排卵日を特定させるように同期化するやり方、で受胚牛を準備できれば良いのではとちょっと思ってしまいました。
では、排卵卵胞が発育中はどのくらいのP4が必要なのか、ということなのですが、この文献では、3.66ng/mlとのことです。
以前に自分がまとめた時は(
オブシンクで高い受胎率を得るために - だいさく NOSAI獣医日記
)、2.0ng/mlが人工授精(AI)では必要と調べていましたが、受精卵移植(ET)に関しては、この文献ではそれよりもずっと高い3.66ng/mlを記されていました。
このように、受胚牛を準備するにあたり、排卵前のプログラムとして、
➀PGF2αを2回投与しP4濃度をしっかりと低下させることで排卵率が向上
➁卵胞発育期間中は高いP4濃度にさせる
これらのことが、子宮環境を含めた受精卵移植後の胚の生存の維持に影響を与えている可能性があることが示された、という文献の紹介でした。
この文献は全文ダウンロードできますので、詳しい内容につきましてはHPをご覧いただければ幸いです。
今日も最後までお読みいただきありがとうございます。
参考文献
1. R Sartori, Review: Manipulation of follicle development to improve fertility of cattle in timed-artificial insemination programs, 2023, Animal, 17 Suppl 1:100769
2. F A Rivera,Reduced progesterone concentration during growth of the first follicular wave affects embryo quality but has no effect on embryo survival post transfer in lactating dairy cows, 2011, Reproduction, 141, 333-342.
3. M H Pereira, Expression of estrus improves fertility and decreases pregnancy losses in
lactating dairy cows that receive artificial insemination or embryo transfer, 2016, J Dairy Sci, 99, 2237–2247