VWP(Voluntary Waiting Period)は、搾乳牛では分娩後何日に設定することが良いのでしょうか?
私の結論は、正直決まっておらず、生産者さんの考え方、個体ごとの牛の状況、牛群のの状況、診療所の状況、などで考えるようにしています。それが良いのかどうかは分かりませんが、今の私の力ではそれで実施しています。
また、➀牛ごとに決めるのか、②牛群で決めるのか、➂その両方を組み込むのか、悩ましく感じて、定まらない状態で今に至っているため、➂で現在実施しています。
今回、何を基に普段自分が生産者さんと話し合っているかを、自分自身が頭を整理したくてまとめてみようと思いました。
初回人工授精を分娩後いつから実施するのかを、産次、乳量、分娩後日数(DIM:Day in milk)、BCS(ボディーコンディションスコア)、周産期の疾患、子宮回復、卵巣機能回復、泌乳持続性、等で普段自分は検討しているかなと、浮かびました。
今回は、その中の産次で考えてみました。
初産牛は、経産牛よりもピーク乳量からの低下の度合いが緩やかなことが言われていますし、ある検診農場さんのデータでも似たような泌乳曲線がみられます。

また、妊娠約4~5カ月(120日~150日)くらいで妊娠による乳量低下が始まり、特に初産牛は妊娠4カ月くらいからであると報告されています(1、2、3、4)。
つまり、初産牛は、乳量低下が緩やかで、まだそこまで低下が強くない泌乳中期の時点に、妊娠4~5カ月以上の時期が長く重ならないようにした方が、乳量の低下への影響を最小限に抑えられる、ということが想像できます。
自分の中で分かりやすかった論文が以下になります(5)。
分娩後60日または88日で定時人工授精を実施できるように開始したダブルオブシンク処置において、初産と経産、初回授精で受胎した牛と全ての牛、というような形で調査されていました。

泌乳期は、泌乳初期(0~49日)、泌乳最盛期(50~109日)、泌乳中期(110~219日)、泌乳後期(220日~乾乳)に分類されます。
乳量の検査は毎月1回あり、横軸は分娩後のおよその月数、で例えば、1だと分娩後0~30日、7だと180~210日を意味します。
A 初産牛かつ調査牛全て
B 初産牛かつ初回授精で受胎した牛
C 経産牛かつ調査牛全て
D 経産牛かつ初回授精で受胎した牛
今回注目したいのが、Bで、初産牛においてVWP60日で受胎した牛が、妊娠による泌乳量低下の影響を長く受けやすく、泌乳中後期で乳量が低下しました。
VWP60日の場合、60日で定時人工授精が実施され受胎しますと、妊娠120日の時点は、分娩後180日に相当します。また、仮に乾乳期間が60日としますと、妊娠280日-乾乳60日=220日となり、搾乳している期間は、60日+220日=280日となります。そのため、泌乳中期の分娩後180日から乳量低下の影響を受け、280日までの100日間程(約2~3カ月)、乳量低下の影響を受けます。
一方、VWP88日の場合、88日で定時人工授精が実施され受胎しますと、妊娠120日の時点は、分娩後208日に相当し、1カ月遅く授精した結果、まだ泌乳中期ではありますが、より泌乳後期に近い時期(つまり、ちょっと乳量が低下した状態)になります。乳量低下の影響を受ける期間はおよそ100日と同様ですが、1カ月遅く授精した結果、VWP60日の場合よりも泌乳後期に進んでいるため、泌乳量が幾分低下した状態での妊娠による乳量低下の影響を受けます。
VWP60日も88日も、どちらに転んでも、妊娠による乳量低下の影響を受けます。しかし、どうせ受けるのであれば、より乳量が低下した状態で受けた方が影響が弱いという理解で良いのかなと思っています。
また、1泌乳期あたりの乳量が牛の収益性に影響を与える主要な要因の一つであることも本論文で示されていますので、初産牛であれば60日よりも88日のように、遅らせ過ぎるはまずいですが、遅らせた授精の方が良いのかなと思います。
しかしながら、ここで一度立ち止まってみようと思います。
総乳量だけでなく、泌乳期間中の乳量効率も牛の収益性に影響を与えることを留意しておかないといけないとも本論文では述べられていました。
このような報告があります(6)。
WPを60日から88日に延長すると、経産牛において除籍率が増加したとのことです。群全体で考えると、受胎までの期間の変化と除籍が相まって、除籍の少ない初産牛では泌乳期間が延長(22日)したが、経産牛全体では延長しなかったとのことです。泌乳期間の延長により、VWP88日の初産牛では飼料費を上回る乳収入が増加し、調査泌乳期間中のキャッシュフローが増加する傾向が見られましたが、経産牛ではその傾向は認められなかったとのことです。一方、VWP88日において、1頭当たり収益性は、初産牛では増加しましたが、経産牛では減少しました。更新コストや飼料費を考慮すると、VWP期間を60日から88日に延長することは、初産牛の収益性を高め、経産牛の収益性を低下させる可能性を述べられていました。あくまで海外の状況ではありますが、1つの参考にはなる考え方ではあると思います。
ここで私がお伝えしたいことは、VWPを延長し、妊娠時期を泌乳後半へシフトさせることは、泌乳中期から後期の乳量のパターンに影響を及ぼす、ということを知らないよりも知って理解した上で、牛や牛群の他の条件も考慮し、生産者さんと相談し、VWPを決めることが大事かと思います。
今日も最後までお読みいただき、ありがとうございます。
気持ち次第ですが、分からないことが多いのでちょっとVWPについて続けて考えてみよと思います。
参考文献
(1)Olori, V. E. 1997. Effect of gestation stage on milk yield and composition in Holstein Friesian dairy cattle. Livestock Production Science. 52, 167-176
(2)Roche, J. R. 2003. Effect of pregnancy on milk production and bodyweight from identical twin study. J. Dairy Sci. 86:777–783.
(3)Penasa, M. 2016. Short communication: Effects of pregnancy on milk yield, composition traits, and coagulation properties of Holstein cows. J. Dairy Sci. 99:4864–4869.
(4)Chen, Y. 2024. .Association between days post-conception and lactation persistency in dairy cattle. J. Dairy Sci. 107:5794–5804.
(5)Stangaferro, M.L. 2018. Extending the duration of the voluntary waiting period from 60 to 88 days in cows that received timed artificial insemination after the Double-Ovsynch protocol affected the reproductive performance, herd exit dynamics, and lactation performance of dairy cows. J. Dairy Sci. 101:717-735
(6)Stangaferro, M.L. 2018. Economic performance of lactating dairy cows submitted for first service timed artificial insemination after a voluntary waiting period of 60 or 88 days. J. Dairy Sci. 101:7500-7516.