だいさく NOSAI獣医日記

強みをみつけ、チャレンジを与えられる獣医でありたい

「教え方」について、今一度勉強してみました。

最近、「教え方」について色々考える機会があり、本を読んで勉強してみました。

自分の教え方は果たしてどうなのか・・・とちょっと不安になったからです。

その不安を少しでも解決したく手に取ったのが、「オトナ相手の教え方」(著者:関根雅泰さん、発行:株式会社クロスメディア・パブリッシング)です。

読んでみたところ、正直難しい話ではないのですが、じゃ本当に実践できているかとなると自分はできていないなと感じました。

この本で「教える」ことの本質は、次の2つが示されていました。

① 相手の立場に立つ

② 学習の手助け

当たり前では???と思われた方が多いと思われますが、実際にその姿勢でできているかは、自分はまだまだ不十分だと感じました。

まず①の相手の立場に立つについてです。

教え上手な人の教え方は、相手本位であり、教え下手は人は、自分本位(教えたい気持ちが強く、無意識に自分本位なってしまってることがほとんど、悪気はないことが多い)であると示されていました。

また、実際に教えるとなると、自分を含め多くの獣医師は診療所の先輩獣医師から教えてもらったやり方をそのまま後輩教育に利用しているか、または自分が教えてもらったやり方に上乗せして+αのやり方をやっているのが実情ではないかと思います。しかし、この本を読んで大事なポイントを知ることができました。

大事なのは、教える前に相手の現状のレベルを確認することです。

つまり、どのくらい知識と技術があり、どのくらいのことができるのか?

そして、これら3つについて、①言葉、②文字、③行動で示してもらい、現状を把握することが大切であることを知りました。

相手の現状のレベルを把握した後には、目標のレベルを検討に移ります。

教える目的は、「現状と目標の差を埋めること」であり、その目標である知識、技術、態度の3要素がそれぞれこのようになってほしいという状態を検討します。

・知識:~を説明できる状態

・技術:~ができる状態

・態度:~をするようになる状態、~をしなくなる状態

例えば、

知識として、牛の病気について農家さんに説明できるようになった。

技術として、牛の病名を絞れるようになり診断がよりできるようになった。

態度として、農家さんに挨拶できるようになった。農家さんの困っているところに寄り添うことができるようになった。

この流れを考えずに、一方的に教える側の持っている知識、技術を教えようとするため、目標となる状態が定まりません。そうなると、達成できたのかできなかったのかも感じることができないので、教わる本人が成長している感じを少し得られにくい可能性がでてきてしまうと思いました。

次は、②の学習の手助けについて、次の2点が個人的には勉強になりました。

1. 獲得

2. 変化

診療技術や知識を教えたり、教科書や文献、雑誌を紹介して本人ができなかったことができるようになるのは獲得になり、これは自分もやっているつもりで理解できるのですが、最も難しいのは、2の変化させること!が身に沁みました。

相手の言動・態度が変わって、はじめて教えたことになる!とのことです。たしかに、言っただけでは変わらないことは多くの獣医師が感じていると思います。変わらないのは言われた本人が変わろうとしないから、と思っている獣医師も私を含めいると思います。

しかしここで、教えるにあたって大事な要素を本書は教えてくれました。

まず1の獲得について大事なことは、以下の3つです。

① コップの大きさ

② 小分けにして入れる

③ 理解度の確認

①「コップの大きさ」とは、説明する前に現状のレベルを把握することです。どの程度の知識、技術レベルなのかを知ることです。

②「小分けにして入れる」とは、持っている情報を全て伝えないことと記されています。これは、自分も教わる時に頭がパンクしてしまった経験があります。いったん話についていけなくなると、それ以上はもう頭に入らなくなってしまい、教わった内容そのものが理解できない状態に陥ってしまったことがあります。逆にいうと、教えた側は教えたつもりになってしまっているということです。相手に伝わるかが、重要なので、コップに入る程度に小分けに教えることは本当に大事だなと強く思います。

③「理解度の確認」とは、上手な伝え方は伝えて終わりではないということです。どのくらい伝わっているのかを説明の直後に、言葉にしてもらったり、文字にしてもらったり、行動で示してもらうことが大事であるとのことです。

また、獣医療のような技術に関しては、やってみせることも大事であり、やってみせる際には、どこを見てほしいか事前に伝えてから、やってみせること、そして、やらせる際には、やらせた直後にフィードバックを行うこと、が大事でやっていきたいと思い、現在進行中です。

ここで、アドバイスとフィードバックの違いについて説明を加えます。

アドバイス:発生した事実に対して、意見・助言を言うこと。(短期的に有効だが主体性はやや育まれにくい)

フィードバック:発生した事実を伝え、「ではどうすれば良い?」を質問し、相手本人に自分で考えさせること(長期的には主体性が育まれやすく有効)

両方を上手くバランス良く取り入れればより有効な学習の支援ができると思います。

次に2の変化についてです。

これは個人的に上手くできていない実感が強い大事な点でした。相手の言動・姿勢を変えてほしい時には、3つの流れがあること。まずは「良い点」を具体的に伝え、その次に改善してほしい点を伝える。この時も、この悪い言動に対しての本人の考えや意見をしっかりと聴き、その上で、こちらの考えを伝えることが重要とのことです。さらに、この時にWhyを絡めるとより伝わりやすくなります。最後に、もう一度相手に今後どのような言動を取ろうと考えているのか問い、本人に言わせる。この時に、「間」をしっかり取り、こちらの言動を挟まないように我慢すること。この3つの流れが大切であることを教わりました。

しかし、教えることの最も大切なことは、その土台作りです。同じ内容を伝えるにも、だれが伝えるのかで意味合いは変わります

この3つの流れが上手くいくためには、教える側がそれに値する人格や能力を持っていることが大切であると自分は肌で感じてきました。なので、そのような信頼関係を常日頃から作るように動いて努力することは大事だと思います。

このように、教え方について勉強できる本でしたが、本書でも示されていますように、担当者一人だけで行うのではなく、周囲を巻き込むことが大事であることは、自分も強く思います。

本書では、職場の見える化「人脈マップ」を作ることとありましたが、これは数年前に近隣の3診療所の全獣医師にお願いして、作ったことがありました。それぞれの強みなどを表にまとめてその当時は全員に配布したところ、連絡が来たり、逆に質問したりして、効果があった経験があります。新人獣医師が担当者以外の様々な獣医師に訊ける環境を教える側が作ってあげることが大切だと感じます。

科学的にも、新人に教える担当者が周囲の「協力」を求める行動そのものが、新人の能力向上につながっていることが明らかにされています。

知りたい情報を誰が持っているかを、教える側が「知っている」ことが、組織を成り立たせる上で大事と記されていますが、これは有難いことに、自分はちょうど家畜診療の編集委員を担当していることもあり、様々な獣医や畜産の雑誌に目を通したりすることはルーチンワークであり、また大学の先生とこれまで養ってきた人脈、SNSなどを通して知り合った獣医師など、それなりに色々な先生と知り合うことがお陰様でできてきたと勝手に思っています。なので、人脈マップを色々な組織・規模で作成するのは非常に良い効果があるのではと思います。

ただ注意点も指摘されていました。複数で教える場合は、「混乱」に注意とのことです。色々な人が指導に絡むと人によって言うことが違ってくるという本当によくある問題です。この混乱を防ぐためには、新人にどうなってほしいのか、数か月後、1年後の到達目標は何かということを皆で共有をしておくこととのことです。これについては、できれば貼りだして見える化しておくことが大事だと、以前診療所内で話をしたことがありました。

ここでよくやってしまう注意点があります。その目標に到達するまでのやり方に関しては、教える人それぞれに委ねることです(ここは触らない)。その方が1つのやり方だけでなく、他のやり方も学ぶ機会になるからです。そして、教える側も自分のやり方でないからと言ってその点について文句を言ったり、細かく指摘しないことが大切だと感じます。教える側も、他の獣医師のやり方を知るきっかけにもなります。そして、新人や若い獣医師には教わった中から自分(の考えや体格)に合っている、やってみたいと思うものを自分で選択し、まずはやってもらうように心がけています。そうしないと教わる新人は混乱してしまいますので。

今回、「教え方」について今一度勉強したく、「オトナ相手の教え方」を読んでみました。賛否両論あると思いますが、教え方で悩んでいらっしゃる獣医師の先生方の参考に少しでもなれば幸いです。

長い文章を最後までお読みいただきありがとうございます。