だいさく NOSAI獣医日記

強みをみつけ、チャレンジを与えられる獣医でありたい

基本のレベルを高める(直腸検査)

この1か月、もうすぐ2年目になる後輩が馬の直腸検査を習得したい、ということで朝一緒に馬の牧場に往診に向かっています。彼は、朝寝坊せず、10分前には着いて準備しています。休みの日も朝だけは直腸検査をしにくる、という意気込み。

3月中に、子宮と卵巣を触診し、エコーで子宮と卵巣を当れるようになりたい、という目標を持って相談されました。

1か月ですぐにできる訳ではないし、自分もすごい直腸検査の技術を持っている訳ではないし、教えることが上手い訳でもないです。

しかし、直腸検査をするチャンスを与えることだけはしたい、という思いは先輩から受け継いできました。牧場に協力していただき、1か月で150~180頭くらい手を入れることができそうな予定です。

でも、これと言って特別なことを教えることはなく、

①安全第一

②馬と人のポジショニング

③声掛け

④直検ゼリーを肛門に塗布

⑤直腸に手を挿入しぼろ出し(便とり)

⑥子宮と卵巣を自分のテリトリーに包み込む(手前に持ってくる感じ)

⑦エコーの当て方

などです。

これと言って、特別なことはない、基本の流れです。

しかし、その基本のレベルを高めることが本当に大事であることを、伝えました。

例えば、④の直検ゼリー。

直検ゼリー???と思われるかもしれませんが、特に寒い時期は温めておくという準備が重要です。冷たいゼリーは馬も少し嫌がるし、滑りもちょっと落ちます。温めておくと、馬がより安心し滑りも良く、直腸検査がやりやすくなります。安全第一につながります。直腸検査をする前から始まっている、準備が大切、と伝えました。

ここまでは、ちょっとした余談です。

もっともお話したい基本技術が「ぼろ出し」です。

だれでもできる「ぼろ出し」ですが、これがどの高さのレベルでルーチンにできているのかが、非常に大事だと自分は思い続けています。

ぼろ出しは、決して高度獣医療技術でもなく、応用技術でもなく、基本中の基本技術です。しかし、これが高いレベルで行うことができれば、子宮や卵巣を自分の自由なテリトリーに包み込みやすく、子宮や卵巣の触診がスピーデイ・正確性・直腸を傷つけにくい、という良いこと尽くしで、当然その次のエコー検査も同様です。

スピードがでれば、馬もじっとしている時間を短縮でき、関わる人馬の安全性も得られます。

ぼろ出しを、ぼろを出すことを目的とするのではなく、スピーデイかつ正確に診断するための手段と捉えることが大事だと思います。

ボロがあと一個とれればもっとやりやすいのになあ、という場面はしょっちゅうあります。これをとることが大事ですが、基本をおざなりにし、なんとか子宮や卵巣が触れるから大丈夫と思って続けていると、より時間がかかり直腸壁を傷つけるリスクも高まりますので、やはり様々な場面でぼろ出しを確実に行えることができる基本技術は大切です。

プロサッカーの世界でも、難しいプレーをせず、ボールを止めたいところに確実に止める、正確なパスを送る、という基本技術を限りなく高めに高めたのが、メッシやシャビやイニエスタを要して世界を制覇した時のバルセロナというクラブでした。

馬の直腸検査のこの道40年のスペシャルな先生も、今でも、ボロだしと子宮を手前に持ってくる、ということをを愚直に実践している、とのことです。

色々なことに手を出すことも大切ですが、ちょっと今一度考えたいと思います。

基本なくして応用はないと思います。基本が伴っていなければ、伸び悩む獣医人生になる可能性が高まるのではと自分は思います。

なので、やったことがある➔できる、という程度ではなく、基本だけどできるレベルをとことん高めることは、本当に大事であることを後輩に伝わっていたらいいなと思います。

自分への戒めとして、自分も後輩に伝えながら、改めて基本を大事にしていきたいと思いました。

最後までお読みいただきありがとうございます。