だいさく NOSAI獣医日記

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受胎率向上のための改良定時授精プログラム(文献紹介)

CIDRを用いた定時授精プログラムには、大きく分けて二つの考え方があります。

今回ご紹介する2022年に発表されたこの文献は、ホルスタイン搾乳牛において、その2つを合体させた内容です。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

いきなり結論です!

CIDR挿入時におけるEBと同時にGnRHを追加投与し、さらに7-8日後にPGF2αを2回投与することで、受胎率を高めることができる。

 

では内容に入ります。

定時授精プログラムで高い受胎率を得るための戦略としては、次の3段階の流れがあります。

  1. 今ある主席卵胞を含む卵胞群を排卵または閉鎖させ、新しい卵胞波を確実に立ち上げる。
  2. 7-8日後に完全な黄体退行を誘導する。
  3. 排卵を確実に起こし、授精と排卵のタイミングを確実に合わせる。

そして、1に関してが大きく二つの方法に分かれます。

➀ CIDRとGnRHで今ある卵胞を排卵させ、新しい卵胞波を出す方法

② CIDRとエストラジオールで今ある卵胞を閉鎖させ、新しい卵胞波を出す方法

の2つがあります。どちらも今ある時点での卵胞をなくして新しい卵胞が作られることを想定されたプログラムになっています。

しかしながら、すべての牛で、本当に新しい卵胞波を作ることができているのでしょうか?

この論文によると、実際に新しい卵胞波を出すことができているのは、①で50%程度(1)、②で70%程度(2,3)と、必ず新しい卵胞波を出現させることができている訳ではないことが指摘されています。黒毛和種において、②ではほとんどの牛で新しい卵胞波が出てていますが、かなり遅れて出てくる牛も実際にいるのを経験しています。

また、GnRHに反応し排卵すると新しい黄体をもう一つ形成することができるので、プロジェステロン濃度をより高い状態に保つことができます。その結果、高プロジェステロン濃度下で新しい卵胞波が発育することができるので、このことも受胎性向上には良い影響がある(4, 5)と考えられています。

しかしながら、オブシンクをベースとする、プログラム開始時にGnRHを投与することできたもう一つの新しい黄体は、7-8日後のPGF2α投与時にはまだ若い黄体なので、受胎率を高めるための黄体完全退行を確実にする(1)ためには、PGF2αを2回、24時間間隔で投与する必要があると報告されています(6-10)。

以上のことを考慮した結果、本論文の研究グループは、①と②を合体させ、二つの仮説を検証されました。

一つ目は、CIDR挿入時にエストラジオールだけでなく、GnRHを追加で投与することで、多くの牛で新しい卵胞波を作ることができる、その結果、受胎率を高める。

二つ目は、CIDR除去時の前日に追加でPGF2αを投与することで、24時間間隔で2回投与でき、その結果、受胎率を高める。

という仮説内容です。

本論文で使用された定時授精プログラムは以下になります。

CIDR : プロジェステロン 1.9g

GnRH : 200μg(通常のオブシンクの2倍量、排卵できる可能性を高めるため)

EB: 安息香酸エストラジオール  2mg

PGF2α : クロプロステノール 500μg

eCG : 400IU

ECP : エストラジオールシピオネイト(安息香酸エストラジオールよりもゆっくりと作用する、日本では未使用)

 

様々な見方の結果を出されていましたが、本論文で最も伝えたい結果は以下になります。

0 日目の処置(EB vs EB+GnRH)および PGF2a 処置回数(1 回 vs 2 回)による、それぞれの受胎率を表で示します。

この表の結果を見ると、GnRH+EB+PGF2α2回の群が55程度と他よりも受胎率が高い結果でした。詳しく考えると、

  1. EBだけで新規卵胞波を誘導する場合は、PGF2α2回投与は受胎率に効果なし。
  2. EBにGnRHを追加で投与するだけでは、受胎率に効果なし。
  3. GnRHを投与して新規卵胞波を作ろうとした場合、PGF2αは2回投与しないと黄体完全退行が期待できない。2回投与すると、受胎率が向上する。

つまり、EBと同時にGnRHを追加投与し、さらにPGF2αを2回投与することで、受胎率を高めることができる。

ということが示されました。

また、4つのプログラムにおいて、プロジェステロンの流れは次のようになりました。

PGF2αを2回投与した方が、8日目(CIDR除去日)と10日目(授精時)のプロジェステロン濃度が低い結果を示します。

また、下表のように、PGF2αを2回投与した方が、10日目の発情発現率(Estrus rate)が有意に高く、その時点でのプロジェステロン濃度(Serum P4)も有意に低い結果でした。

さらに、発情がある方が、ない方に比べ受胎率(P/AI)が高かったことも下表で示されています。

また、CIDR挿入時にGnRHを追加投与することによって、排卵する牛が26.3%とEB単独の場合の5.2%に比べ増加しました。つまり、新規卵胞波を誘導できた牛が増加した可能性が高まりました。

本研究の結果をまとめます。

  1. CIDR挿入時にエストラジオールだけでなく、GnRHを追加で投与することによって、排卵する牛が増え、新規卵胞波の出現確率が高まり、受胎率を高めた。
  2. CIDR除去時の前日に追加でPGF2αを投与することによって、24時間間隔で2回投与でき、授精時のプロジェステロン濃度をより下げることができ、発情発現率が高まり、その結果、受胎率を高めた。

つまり、EBと同時にGnRHを追加投与し、さらにPGF2αを2回投与することで、受胎率を高めることができる、という内容の論文紹介でした。

現場と牛としては注射回数は増えますが、ホルモン状況や卵胞波などの考え方としては非常に効果的な勉強になる内容でした。

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

(参考文献)

  1.  Borchardt S, Pohl A, Carvalho PD, Fricke PM, Heuwieser W. Effect of adding a
    second prostaglandin F2
    a injection during the Ovsynch protocol on luteal
    regression and fertility in lactating dairy cows: a meta-analysis. J Dairy Sci
    2017;101:1-
    6.
  2.  Bo GA, Cutaia LE, Souza AH, Baruselli PS. Actualizaci on sobre protocolos de
    IATF en Bovinos de leche utilizando dispositivos con progesterona. Taurus
    2009;41:20-
    34
  3.  Monteiro PLJ, Borsato MJr, Silva FLM, Prata AB, Wiltbank MC, Sartori R.
    Increasing estradiol benzoate, pretreatment with gonadotropin-releasing
    hormone, and impediments for successful estradiol-based
    fixed-time artificial insemination protocols in dairy cattle. J Dairy Sci 2015;98:3826-39
  4.  Consentini CEC, Wiltbank MC, Sartori R. Factors that optimize reproductive
    ef
    ficiency in dairy herds with an emphasis on timed artificial insemination
    programs. Animals 2021;11(301):1-
    31. 
  5.  Pereira MHC, Wiltbank MC, Barbosa LFSP, Costa Jr WM, Carvalho MAP,
    Vasconcelos JLM. Effect of adding a gonadotropin-releasing-hormone treatment at the beginning and a second prostaglandin F-2 alpha treatment at the
    end of an estradiol-based protocol for timed arti
    ficial insemination in
    lactating dairy cows during cool or hot seasons of the year. J Dairy Sci
    2015;98:947-
    59
  6.  Brusveen D, Souza A, Wiltbank M. Effects of additional prostaglandin F2a and
    estradiol-17
    b during Ovsynch in lactating dairy cows. J Dairy Sci 2009;92:
    1412-
    22. 
  7. Carvalho P, Wiltbank M, Fricke P. Manipulation of progesterone to increase
    ovulatory response to the
    first GnRH treatment of an Ovsynch protocol in
    lactating dairy cows receiving
    first timed artificial insemination. J Dairy Sci
    2015;98:8800-
    13.
  8. Heidari F, Dirandeh E, Pirsaraei ZA, Colazo MG. Modifications of the G6G
    timed-AI protocol improved pregnancy per AI and reduced pregnancy loss in
    lactating dairy cows. Anim Int J Anim Biosci 2017;11:2002-
    9. 
  9. Santos V, Carvalho P, Maia C, Carneiro B, Valenza A, Crump P, Fricke P. Adding
    a second prostaglandin F2
    a treatment to but not reducing the duration of a
    PRID-Synch protocol increases fertility after resynchronization of ovulation in
    lactating Holstein cows. J Dairy Sci 2016;99:3869-
    79.
  10. Borchardt S, Pohl A, Carvalho P, Fricke P, Heuwieser W. Short communication:
    effect of adding a second prostaglandin F2
    a injection during the Ovsynch
    protocol on luteal regression and fertility in lactating dairy cows: a metaanalysis. J Dairy Sci 2018;101:8566
    e71.