だいさく NOSAI獣医日記

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クロストリジウム感染症とミルク濃度(浸透圧)の関係

 

クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens:通称ウェルシュ菌)によって腹部膨満し急死した51日齢の黒毛和種子牛がいました。

今までクロストリジウムと子牛の関係といえば、壊死性腸炎を考える程度で、クロストリジウム感染症と哺乳子牛の腹部膨満について、正直なところ全くと言っていいほど考えたことがありませんでした。なので色々と調べてみると、①クロストリジウム、②ミルク濃度(総固形分)、③浸透圧、この3つの関係性が見えてきました。

臨床現場における哺乳子牛の腹部膨満で最も遭遇することが多いのは第四胃拡張ではないかと思われます。

ではなぜ、第四胃が拡張するのでしょうか?

その要因の一つが、第四胃内への高濃度エネルギーを含んだ内容物(母乳、代用乳、高エネルギー経口電解質)に対する細菌の過剰発酵によって、第四胃から排出できない程の過剰量のガスが生産されることであると言われています(1, 2)。哺乳子牛の第四胃からの内容物の排出は、摂取したミルク量、浸透圧(固形物の濃度)、第四胃および十二指腸のpHなど、いくつかの要因に潜在的に影響されるともいわれています(3)。

ではなぜ、この子牛で過剰な量のガスが生成されたのか考えてみました。

代用乳の多くは、母乳と比較して濃度が濃い、つまり浸透圧が高いものがあります。浸透圧が推奨値を超える状態は、その内容を希釈するまで第四胃内でミルクが残り、小腸への排出速度が遅くなり(4)、長く第四胃に残っている影響で第四胃内のpHが高くなります(5)。そして、第四胃内が酸性環境であれば通常は死滅する微生物が生き残ってしまう可能性を高めてしまいます(6)。第四胃に存在する細菌、今回であればクロスロリジウム・パーフリンジェンスによる発酵の時間をより長く与えてしまい、二酸化炭素を主体とするガスが非常に多く産生された可能性が考えられます。

第四胃のpHについてより詳細な報告があります。pHが5.0以上になると、病原性細菌の生存率が上昇してしまいます(6, 7)。また、クロストリジウム・パーフリンジェンスの発育可能なpHは5.0~9.0で至適pHは6.0~7.5と言われています(農林水産省)。通常の哺乳子牛は、哺乳直前はpHが2以下で、哺乳後に6付近まで急速に上昇(7-9)、最大2時間上昇した値を維持し、7~9時間で哺乳前までの値に徐々に低下します(4, 10)。よって、第四胃に長くミルクを滞留させない考え方・方法が重要なキーワードになると思われます。

しかしながら、ミルク給与方法に関して、今回はミルク量もミルク濃度を変えていないし、哺乳に関しては何も変化していません。にも関わらず、一頭が急死し、1週間以内に同じロボット哺乳舎の他2頭も腹部膨満を発症しました。同じ濃度の代用乳を飲む他の区画の子牛たちは何事もありませんでした。

聴き取りを行ったところ、環境を清浄する目的で、2-3週間ほど前にこれらの子牛たちがいる哺乳舎だけ、床のオガクズや土を全て削って、新しいオガクズやクリンカーを入れるという作業をされていました。もしかしたら、下に存在していた嫌気性菌であるクロストリジウムが表面に出てきて、いつも以上に環境中に存在するため子牛の口に入ってしまい、消化管内のクロストリジウムの量が普段よりも多くなってしまった可能性があると推測されました。なので、環境に対しては、さらに石灰を多く敷き詰めていただき、クリンカーとオガクズをさらに上乗せし封じ込める対策を行いました。

さらに、環境だけでなく、子牛自身が、クロストリジウムが増えないような腸内細菌を持たないといけないと考えました。そこで、クロストリジウムと子牛疾病に詳しい先生方に聞き、また文献で調べてみると、ミルク濃度を調整する対策を行うことが多いと教えていただきました。教科書ではミルク濃度の具体化な記述を自分は見つけられませんでした。

この農家さんで使用されているミルクは、粗蛋白質(CP)28%、粗脂肪(CFa)18%です。

これを、1Lのお湯に200g給与されている(ロボット哺乳で、1日7Lを4回に分けて飲みます)ので、200/1200で6倍希釈、総固形分は16.7%になります。総固形分16.7%の場合の浸透圧は、約400mOsm/Lとなります。通常の牛乳は、総固形分12%程度で、浸透圧は300mOsm/L、さらに1回に1Lも飲まないので、母乳よりも濃度が濃いものを1回あたり多く飲んでいることになります。実際、高い浸透圧のミルクは、消化管粘膜の損傷を誘発し、子牛の健康に潜在的なリスクを与えることが示されています(15)。

しかしながら、浸透圧が高い、つまり濃度が高いからと言ってだめではなく、今回はあくまでクロストリジウム対策のために濃度を減らすように調整しました。実際、総固形分20.4%まで増加しても、通過率や栄養の消化率、糞便性状には影響せず、発育が良かったことが報告されています(11)。減らしすぎは栄養不足になり別の問題に発展してしまいます。固形分が約20%、つまり1Lのお湯に約250gのミルクを給与するやり方です。しかしながら、さらに濃い600mOsm/Lを超す場合は、第四胃内のpHが上昇し(7)、第四胃から小腸への排出を遅らせてしまいます(6, 12)。そのような変化が腸内の病原細菌の増加を促進する可能性があると言われています(13)。なのでよほどの理由がない限り、そこまで高める必要性はないのではと思いました。哺乳後に水が自由に飲める環境も濃度を希釈するのに非常に大事なことも謳われています。

この農家さんの子牛は、水は自由に飲める環境にありますので、上記のことを考慮し、まずは1Lに給与する量を200から170gに30g減量、つまり6倍から7倍希釈に変更し、固形分は計算上170/1170×100=14.5%に設定しました。さらに今回、出来上がったミルク濃度のBrix値をポケット初乳糖度計で測定しました。


Brix値は、よく初乳の免疫グロブリンであるIgGを推定するのに使われます。糖度計と呼ばれることが多いです。しかし、このBrix値は、「糖」の量ではなく、「水に溶けている固形分の総量」を測定しています。

糖度は「甘さ」を意味するような感じがしますが、そうではなく、タンパク質や塩分が多く含まれると糖度も高くなります。試しに、家にあった飲み物のBrix値を調べてみました。

牛乳 12.1%

豆乳 10.3%

アーモンド効果 4.6%

とうきび茶 0.3%

にんじん100% 7.9%

しょうゆ 34.3%

ポン酢29%

水 0.0%

と、にんじん100%が最も「糖」度が高そうですが、違うことがわかります。

 

話を戻しますが、170gに減量していただいたミルクをその場で測定した結果、Brix値が13.4%でした。代用乳のBrix値と総固形分を比較検討した文献のグラフがありますので、この計算式に当てはめると、この場合の総固形分は14.3%となりました。

ミルクのBrix値(横軸)と総固形分(縦軸)の関係(Y=0.96×X+1.47 ,  R2=0.95)(Floren 2016) (14)

 

Brix値の測定は、農家さんで実際に作られて子牛が飲む直前の総固形分をモニターするのに役に立つと考えられます。通常飼育の哺乳子牛に対するミルクの総固形分に関して様々なHPのデータを自分の調べた限りでまとめると、予防濃度は上限として15%~16%を推奨する記述が多くみられました。

 

今回初動対策として、ミルク濃度(総固形分)の減量によるクロストリジウムの対策を行いましたが、他により良い対策がございましたら、教えていただければ幸いです。

問題が起きてから今のところ新たな腹部膨満の子牛はいませんが、これから冬に入りますのでエネルギー摂取がより重要になります。なので、今後はミルクの粉量を170gから180gまで少し増して対策を継続しようと話し合いをしています。

ミルクとは離れますが、ワクチン対策も計画し、分娩予定が近い繁殖牛へ投与を行う予定です。

最後になりますが、子牛の第四胃を主体とする腹部膨満の原因として、下痢をしていなくても、壊死性腸炎を疑わなくても、クロストリジウム・パーフリンジェンスによる影響がもしかしたらあるかもしれないと頭にいれて診療する必要があると、15年以上臨床獣医をしていて今気づきました。

文献を参考にしながらまとめてみましたが、間違っているところもあるかもしれないことをご了承ください。

長くなりましたが、最後までお読みいただきありがとうございます。

 

参考文献

  1. Marshall TS. Abomasal ulceration and tympany of calves. Vet.Clin. North Am. Food Anim. Pract. 2009; 25:209–220
  2. Burgstaller J, Wittek T, Smith GW. Invited Review: Abomasal emptying in calves and its potential influence on gastrointestinal disease. J. Dairy Sci. 2017; 100: 17-35
  3. Sen I, Constable PD & Marshall TS. Effect of suckling isotonic or hypertonic solutions of sodium bicarbonate or glucose on abomasal emptying rate in calves. Am. J. Vet. Res. 2006; 67: 1377-1384
  4. Nouri M and Constable PD. Comparison of two oral electrolyte solutions and route of administration on the abomasal emptying rate of Holstein-Friesen calves. J. Vet.Intern. Med. 2006; 20:620–626.
  5. Constable PD, Ahmed AF, Misk NA. Effect of suckling cow's milk or milk replacer on abomasal luminal pH in dairy calves. J. Vet. Intern. Med. 2005; 19:97–102
  6. Foster DM and Smith GW. Pathophysiology of diarrhea in calves. Vet. Clin. North Am. Food Anim. Pract. 2009; 25:13–36.
  7. Smith GW, Ahmed AF and Constable PD. Effect of orally administered electrolyte solution formulation on abomasal luminal pH and emptying rate in dairy calves. J. Am. Vet. Med. Assoc. 2012; 241:1075–1082.
  8. Ahmed AF, Constable PD, Misk NA. Effect of feeding frequency and route of administration of abomasal luminal pH in dairy calves fed milk replacer. J. Dairy Sci. 2002a; 85:1502–1508.
  9. Ahmed AF, Constable PD, Misk NA. Effect of an orally administered antacid agent containing aluminium hydroxide and magnesium hydroxide on abomasal luminal pH in clinically normal milk-fed calves. J. Am. Vet. Med. Assoc. 2002b; 220:74–79.
  10. Marshall TS, Constable PD, Crochik SS, Wittek T. Comparison of acetaminophen absorption and scintigraphy as methods for studying abomasal emptying rate in suckling dairy calves. Am. J. Vet. Res. 2005; 66:364–374.
  11. Azevedo RA, Machado FS, Campos MM et al. The effects of increasing amounts of milk replacer powder added to whole milk on feed intake and performance in dairy heifers. J. Dairy Sci. 2016; 99: 8746-8758
  12. Smith GW and Berchtold. Fluid therapy in calves. Vet. Clin. North Am. Food Anim. Pract. 2014; 30:409–427.
  13. Smith GW. Treatment of calf diarrhea: Oral fluid therapy. Vet. Clin. North Am. Food Anim. Pract. 2009; 25:55–72.
  14. Floren HK,  Sischo WM, Crudo C,  Moore DA.  Technical note: Use of a digital and an optical Brix refractometer to estimate total solids in milk replacer solutions for calves. 2016.  J. Dairy Sci. 99:7517–7522
  15. Wilms J, BerendsJavier H,  Martín-Tereso J. Hypertonic milk replacers increase gastrointestinal permeability in healthy dairy calves. 2019. J. Dairy Sci. 102:1237–1246