だいさく NOSAI獣医日記

強みをみつけ、チャレンジを与えられる獣医でありたい

発情周期のステージ推測①  なぜ、発情周期のステージを推測する力が必要なのか

以前にまとめた、「発情周期のステージを推測するための方法」をアップデートしました。今回から複数回に分けて読者の方々と勉強していけたらなと思います。ご意見や疑問等ございましたら、是非一言いただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

初回は、「なぜ、発情周期のステージを推測する力が必要なのか」です。

分娩後これから授精に向かいたい牛、分娩後日数が経過しても発情が来ない牛、妊娠診断で陰性だった牛、これらの牛を授精に向かうために、獣医師、授精師、農家さんは毎日頭と体を使います。

繁殖管理に対する獣医師の考え方や診療所の獣医師数、牛群の規模、従業員数、家族構成、経営などを含めた農家さんの考え方や方針は様々であり、正解はないと自分は思います。

自分が獣医師2~3年目の時の家畜診療等技術全国研究集会で、「PGやCIDRプログラムを使って牛群の繁殖成績が向上した」、と御発表された先生に対して、「それでは農家さんが発情を見つけようとしなくなるから良くないのでは」、と思い質問したら、「農家の方が高齢で発情観察の時間と体力がなく、その状況の中なんとかしようと考えてこの対策を行い農家の方に喜んでもらえた」と話され、浅はかな考えの自分を反省する経験をしました。

このように、臨床現場では様々な状況が有り得ます。しかし、どの状況に対しても獣医師として貢献するために習得すべきスキルがあると私は思います。それが、「牛の発情周期のステージを推測する力」です。この牛が「排卵して何日目である」というのを推測する力です。

では、なぜ、発情周期のステージを推測する力が必要なのでしょうか?

発情周期のステージを推測し、次回発情予測日を農家さんに伝えることで、次回発情予測日周辺において農家さんの発情を見つけようとする意識が高まり、少しでも自然発情を見逃さないことで授精機会の損失を防止し、今より少しでも多く授精に向かえることが期待できます1)。さらに、PGF2α、安息香酸エストラジオール、GnRH、膣内留置型プロジェステロン製剤(CIDR)などのホルモン製剤を使用した発情同期化・定時人工授精処置を行うにしても、排卵後どのステージで処置を開始するのかで受胎率が変わることが報告されています。発情同期化は、授精率をほぼ100%まで高めることが可能ですが、受胎率に関しては現時点ではまだ改善の余地があります。

牛群の繁殖成績の状態を示す重要な指標として、「妊娠率」があります。農家さんの経営にとって非常に有用な指標であり、妊娠率は牛群内で妊娠牛を獲得できているスピード感を示します。

式は、妊娠率=授精率(発情発見率)× 受胎率で表されます。

少し細かく表すと、妊娠率=(授精合計回数 / 発情サイクル数)×(受胎頭数 / 授精合計回数)です。

授精率(発情発見率)と受胎率の両輪が揃って、初めて高い妊娠率を得られます。つまり、農家さんの繁殖成績向上にとって大事なことは、授精する機会を逃さず、かつ受胎率を高めることであり、そのために獣医師が貢献できるスキルの1つが、発情周期のステージを推測する力であると自分は思っています。

次回は、発情周期のステージを推測する具体的な方法、についてです。

参考文献

  1. 安藤寿、大脇茂雄 : 超音波診断装置を用いた直腸検査における発情日予測の効果とその検証, 北海道獣医師会雑誌, 59, 81(2015)