だいさく NOSAI獣医日記

強みをみつけ、チャレンジを与えられる獣医でありたい

黒毛和種繁殖牛の飼料設計と代謝プロファイルテスト

黒毛和種繁殖牛の代謝プロファイルテストと飼料設計を継続している1件の農家さんで、「分娩後発情を示さない牛が以前より増えた、授精しても50%の受胎率なんだ」という話を受け、この問題解決に向かうため、まずは現状を把握することから始めました。

現状把握するために、飼料計算と代謝プロファイルテストを行いましたが、ここで問題だったのが、「体重」でした。以前は妊娠末期は550㎏、授乳期と離乳期(維持期)は500㎏に設定して、その体重で必要とされる乾物摂取量(DMI)、タンパク質量(CP)、可消化養分総量(TDN)で計算していました。そうすると、この農場さんの授乳期の牛たちは、CPがだいたい110%~115%に入っていると繁殖成績の調子が良かったので、いつもその値に入るように設定して餌を調整していただいていました。しかし、「黒毛のお母さん牛ってもっと大きいのでは」と思い、胸囲からの推定体重を調べたところ、多くの牛で推定体重600㎏を超えているということがわかりました。なので、前回の飼料設計から授乳期の牛たちを600㎏で計算して給与していただいていました。しかし、自分は600㎏で計算しているにもかかわらず、CPはいつもと同様の110%~115%に入るように設計するという過ちを犯してしまいました。つまり、給与している量(グラム)で計算するといつもより多い量をあたえてしまっていたことになります。

授乳期の牛

500㎏の場合、1日で必要とするCP量は1190g 例えば112%だと1333g給与。

600㎏の場合、1日で必要とするCP量は1260g 例えば112%だと1411g給与。

となり、少し過剰の状態が毎日続くことになります。このように少しではありますが毎日ちょっと過剰な状態が続くので、肝臓に毎日チクチク針を刺されているような状態が続いていることになります。600㎏の場合、105%程度で1323gとなり、以前の良好な量(グラム)に近いと思われます。

実際、代謝プロファイルテストを行ったところ、ルーメン内へのタンパク質摂取量の過不足を反映する値である尿素窒素(BUN)が非常に高い値を推移していました。

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総合的な栄養摂取(ルーメン内へのデンプンや糖なので非繊維性炭水化物摂取量も反映する)をみるグルコース(Glu::血糖値)は特に問題ないレベルでしたので、やはりタンパク質の摂取量が特に多いことが推測されました。

多くの論文で、タンパク質の摂取量が多い場合、ルーメン内でタンパク質から分解されてできるアンモニアが過剰になり、そのアンモニアを解毒するために肝臓がエネルギーを使って尿素に変え、その結果、繁殖に使えるエネルギーが減る、また、アンモニアそのものが卵子や子宮の受胎能力に影響を与えることが証明されています。さらには、このアンモニアが過剰の状態が続いていしまうと、ルーメン内の微生物たちが元気がなくなり、牛のタンパク質源である微生物タンパク質の量も減り、牛の体全体がタンパク質不足になってしまいます(1)。

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BUN<13mg/dl、BUN/Glu<0.2が繁殖成績に関しては良好との論文もあります(2,3)が、今回はほぼすべての牛でそれ以上の値でした。

今回、自分の勉強不足と考えの甘さからこのような状況になってしまい、農家さんに大変申し訳ないことをしてしまいました。今後、対策後の状況に関してまとめていき、良好な状態を安定していくために「体重」をしっかり意識して飼料設計していこうと思います。

 

参考文献

(1)小原嘉昭, (2006), ルミノロジーの基礎と応用 高泌乳牛の栄養生理と疾病対策. 3,

pp.114-115. 農文協, 東京

(2)細川泰子, 福成和博, 吉川恵郷, 佐藤洋一, 菊池 雄. (2008). 過剰排卵処理を施した黒毛和種牛における採胚成績と給与飼料およびBUN/血糖値比の関係. 日獣会誌 61, 699─704

(3)福島成紀, 木曽田繁, 滝本英二. (2016). 黒毛和種における繁殖性向上を目指した飼料給与体系の検討. 岡山農総セ畜研報 6, 55─59